前回は、後遺障害の等級を下げることに執心する保険会社の実情を解説しました。今回は、保険会社による被害者への交通事故補償の実態を見ていきます。

保険のプロたちに「丸め込まれている」被害者

前回の続きです。

 

対して、こちらはどうか。たとえ弁護士が付いたとしても医師に対して意見書を書いてもらうこと一つが困難なのである。医師にとっては交通事故の症状固定にしても、後遺障害に対する診断書や意見書にしても、治療や研究などの本来の医師業務とは別物である。面倒な仕事であることには変わりがない。無理を承知で意見書を書いてもらう。いくらかの面談費用や文書料も支払わなければいけない。圧倒的に不利な状況に置かれているのが被害者側なのだ。

 

先ほどのEさんのケースを見ても、結局紛争処理申請をしたからこそ認定を受けることができたが、そうでなければ非該当であり、後遺障害の補償は一切受けられなかったのである。手前味噌になるが交通事故を専門に扱っている弁護士であればこそ、異議申立て、紛争処理申請などでようやく認定にこぎつけたわけで、一般の被害者本人の力だけでは到底太刀打ちできる相手ではない。

 

とくに紛争処理まで行った場合には解決までの時間も覚悟しなければならない。等級申請から認定まで2〜3カ月。審査会に審査を請求すればさらに2〜3カ月。そのうえに紛争処理機構にかければまた2〜3カ月は必要だ。Eさんの場合は弁護士を立てて争ったからこそ認定が認められたわけだが、多くの被害者は弁護士を雇う経済的な余裕も、また時間的な余裕もないのである。そのような状況の中で、いうなれば保険のプロたちにいいように丸め込まれているのが実情なのである。

弁護士が介入するのは交通事故被害者のほんの一握り

この状況を読者はどのように感じるだろうか? 悲しいかなこれが我が国の交通事故補償の実態なのである。本来自賠責保険は交通事故被害に苦しむ被害者と、抱えきれない補償費に苦しむ加害者の両者を救済するべく、最低保障としての社会保障の意味合いを持つものとして制定されたはずである。

 

それがふたを開けてみたら民間の損害保険会社が窓口となり、その後遺障害の認定に関しても実質取り仕切るようになっているのである。自賠責の本来の目的、思想はどこへやら、営利団体である民間損害保険会社がその論理の中で自賠責をいいように運用しているに過ぎないのが実際の姿である。

 

繰り返し述べるが、弁護士が介入するのは年間100万人(※平成26年度は約71万人)ともいわれる交通事故被害者のほんの一握りに過ぎない。一体どれだけの交通事故被害者が不当な補償の前に声すらも上げられず、泣く泣く甘んじていることだろうか? およそ先進国とは思えない、かかる交通事故被害者の状態を、今こそ多くの人に知っていただきたいのである。

本連載は、2015年12月22日刊行の書籍『ブラック・トライアングル[改訂版] 温存された大手損保、闇の構造』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

ブラック・トライアングル[改訂版] 温存された大手損保、闇の構造

ブラック・トライアングル[改訂版] 温存された大手損保、闇の構造

谷 清司

幻冬舎メディアコンサルティング

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