ファミリービジネスの後継者育成における「番頭の役割」

前回は、ファミリービジネスを第三者の立場から支える「番頭」について取り上げました。今回は、ファミリービジネスの後継者育成における「番頭の役割」について考えていきます。

親子でないからこそ可能な後継者への牽制と規律づけ

ファミリービジネスでは、現経営者(親)が後継者(子)に対して担うべき役割の中で、難しい役割がいくつかあります。

 

日本のファミリービジネスでは、親が子に対して行いづらい役割を、親子関係にない番頭が行うことがあります。この役割は大きく分けて二つあります。一つが承継プロセスにおける後継者への牽制と規律づけの役割であり、もう一つが後継者の次期経営者としての正統性獲得のためのサポートの役割です。

 

【図表】事業承継における番頭の役割

出所:筆者が表を作成。
出所:筆者

 

ファミリービジネスでは、よくガバナンスの問題が議論されています。特に、経験が浅い後継者に対する牽制と規律づけは、事業承継において重要な課題となります。一般的には、現経営者が後継者の育成の観点から牽制と規律づけを担うべき問題です。他方、親が子に仕事世界における牽制と規律づけを行うことは難しい問題を抱えています。これには二つ理由が考えられます。

 

第一が、前回紹介した通り、経営者親子が職場に親子関係に起因する感情を持ち込みやすいことです。ネポティズム(身内ひいきの問題)が、後継者への適正な牽制や規律づけの障害になってしまうことが、多くの先行研究で示されています。

 

第二が、経営者親子の立ち居振る舞いが、親子関係にない多くの従業員の目に晒されていることです。現経営者による後継者の特別扱いが過ぎてしまうと、多くの従業員のモチベーションに負の影響を与えてしまう可能性もあります。

 

このような中で、後継者に対する牽制と規律づけを行う役割が期待されるのが番頭なのです。番頭は、後継者と直接の親子関係にないために客観的に後継者の言動を評価して指導を行うことができます。また、直接、親子関係にない番頭が後継者に対する牽制や規律づけを担うことで、後継者が無条件で特別扱いされないという周囲の従業員へのメッセージ効果を期待することができます。

 

それだけではありません。番頭は、先代世代の価値観や経験の伝承者となることも期待できます。創業家の先代世代の功績について、実の親では上手に伝えられなくても、第三者的な立場である番頭であれば説得力をもって後継者に伝えることができるかもしれません。後継者の良きご意見番としての役割が期待できるのです。

次期経営者としての「権威」の構築もサポート

もう一つの番頭の重要な役割としては、後継者に次期経営者としての正統性獲得にあたってサポートする役割があげられます。

 

将来の事業承継が予定されている後継者といえども、入社当初は周囲の従業員から十分に受入れられていない状況が想定されます。このような状況の中で、番頭は意図的に後継者に対して着実に能力の蓄積をはかれるような時間と空間を提供することがよくあります。後継者は、番頭の後見のもとで一定の自律的状況が担保されることで、主体的行動が促され能力蓄積をはかることができるのです。

 

それだけではありません。番頭は、後継者と従業員との関係を繋ぐ役割も担っています。後継者は、将来の承継予定者であり、従業員からは最初から特別な存在として見られます。これは、自ずと後継者と従業員との間の仕事上の心理的な距離感を生じさせます。筆者の研究によると、この仕事上の距離感を埋める方法として、番頭が後継者に対して従業員目線で仕事をするよう厳しく指導している事例が複数見受けられました。

 

例えば、多くの従業員が見ている前で、後継者が最も危険な仕事をするよう、番頭が厳しく叱責しているケースがありました。また、番頭が後継者が従業員の中で積極的に関わりを持てるような業務設計を行っているケースがありました。

 

このように、日本のファミリービジネスにおける番頭は、経営者(親)と後継者(子)の関係を調整するだけではなく、後継者の経営上のガバナンスや次期経営者としての権威付けにおいても重要な役割を担っているのです。

 

<参考文献>

『事業承継のジレンマ:後継者の制約と自律のマネジメント』(落合康裕、白桃書房、2016年)

本連載は書下ろしです。原稿内容は掲載時の法律に基づいて執筆されています。

日本経済大学 経営学部 准教授 名古屋商科大学大学院 マネジメント研究科 客員教授

1973年神戸市生まれ。神戸大学大学院経営学研究科博士後期課程修了。博士(経営学)。経営学者。
大和証券(株)入社後、本社人事部、大和証券SMBC (株)金融法人部をへて、2014年より日本経済大学経営学部(東京渋谷キャンパス)准教授就任。現在、ファミリー企業の事業承継について経営学の観点から研究を行う。大学での研究活動を軸に、中小企業の事業承継コンサルティング、承継計画の策定、事業承継に関するセミナーなどに従事する。2015年末に日本で初めてとなる同族経営の実証研究書となる『ファミリービジネス白書』を同友館から発刊。同書の初代企画編集委員長を務める。

著者紹介

連載円滑な世代交代を実現――事業承継の要諦

事業承継のジレンマ

事業承継のジレンマ

落合 康裕

白桃書房

日本は、長寿企業が世界最多と言われています。特にその多くを占めるファミリービジネスにおいて、かねてよりその事業継続と事業承継が大きな課題とされており、研究テーマとしても注目を集めつつあります。 本書はこの問題を…

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