前回は、先代の「レガシー」によって後継者が抱える課題を取り上げました。今回は、外部の取引先と後継者の関係強化から生まれるメリットについて見ていきます。

外部取引先と後継者の結びつきが強くなる理由

これまでの研究によると、二代目以降の後継者は、自社の経営にあたって外部の取引先に目が向きやすいことが示されています。創業者は、ゼロから事業を立ち上げてきたが故に自分の経験に依存する傾向にあります。他方、後継者は起業をした経験がないために、外部の取引先や専門家に依存しようとする傾向があるようです。

 

それだけではありません。筆者の調査によると、後継者と自社内の従業員(非同族関係にある社員)との間の仕事上の距離感が関係している可能性が示されています。

 

一般的に、ファミリービジネスの後継者は将来の経営者としての地位が保証されていることが多いものです。そのため社内の従業員は、後継者に対して一目おいて対応する傾向が多く、後継者は従業員と本音ベースの仕事上の関係がとりづらいようです。結果として、後継者が社内の従業員よりも、自分で開拓した仕入先や顧客との結びつきが強くなるようです。

 

[図表]後継者における自社内と外部環境の関係性

出所:筆者作成
出所:筆者作成

外部での経験・他社の常識を偏重すれば、負の影響も

以前の連載で、外部の取引先との関係性が、自社にない知見やアイデアを持ち込みやすい利点について取りあげました。実はそれだけではありません。外部の取引先との関係を通じて得た経験が、後継者の自社を客観的に評価する視点を養成してくれることにも繋がります。

 

例えば、某老舗産業資材販売業の後継者は、外部の取引先で厳しい営業業務を経験して自社に入社し、自社内の生温さを肌身で感じて営業部門のてこ入れを行いました。外部の取引先を通じた経験によって、後継者は自社を客観的に評価する能力を蓄積して、上記の変革行動に繋げています。また、後継者の客観的視座は、自社内の従業員に対しても仕事上の緊張感を与える効果があります。

 

他方、外部取引先との関係で得た経験は、後継者に負の影響をもたらすこともあります。それは、外部の経験や常識を自社内に持ち込みすぎることで、自社内の従業員から警戒され、受容されにくくなってしまうことです。

 

特に、先代世代からの幹部社員と後継者との仕事上の距離感をさらに拡大させてしまうことに繋がり、結果として、後継者の自社内におけるリーダーシップを養成するうえでも問題が生じてくるといえるでしょう。

 

このように、事業承継プロセスにおいては、外部の取引先と自社内の従業員との関係におけるマネジメントを、後継者に行わせることが重要となってくるのです。

 

 

<参考文献>
Barach, J. A., Gantisky, J., Carson, J. A., & Doochin, B. A. (1988). ENTRY OF THE NEXT GENERATION- STRATEGIC CHALLENGE FOR FAMILY BUSINESS. Journal Of Small Business Management, 26(2), 49-56.

落合康裕(2016)『事業承継のジレンマ:後継者の制約と自律のマネジメント』白桃書房.

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    本連載は書下ろしです。原稿内容は掲載時の法律に基づいて執筆されています。

    事業承継のジレンマ

    事業承継のジレンマ

    落合 康裕

    白桃書房

    【2017年度 ファミリービジネス学会賞受賞】 【2017年度 実践経営学会・名東賞受賞】 日本は、長寿企業が世界最多と言われています。特にその多くを占めるファミリービジネスにおいて、かねてよりその事業継続と事業承継が…

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