ファミリービジネスを第三者として支える「番頭」の役割

前回は、ファミリービジネスの現経営者と後継者との間の複雑な関係について取り上げました。今回は、この複雑な親子関係を調整する「番頭」の存在について考えていきます。

親子の対立や、後継者争いを調停

番頭とは、一般的に現経営者を支える経営幹部のことを示します。老舗研究の前川教授によると、番頭とはファミリービジネスにおける世代交代のつなぎ役であると定義されています。

 

特に、ファミリービジネスの事業承継では、経営者親子の対立、兄弟の断絶、複数の後継者争いがおこる場合に、番頭が必要となると指摘されています。今回の連載では、番頭がファミリービジネスの現経営者と後継者との間の複雑な関係において果たす役割について考えていきます。

経営の意思決定に第三者的視点を反映できる

筆者の老舗ファミリー企業の研究によると、番頭にはファミリービジネスの親子関係を補完する二つの役割があることが示されています。

 

第一に、親子関係に第三者的視点(客観的視点)を入れる役割があげられます。前回の連載では、ファミリービジネスの現経営者(親)と後継者(子)には、率直な意見交換ができる関係、衝突や対立を許容する関係があることを示しました。また、経営者親子間における経営上の異質な意見のぶつけ合いが、組織のイノベーションの発露となる可能性を高めてくれる効果があることを指摘しました。

 

他方、親子関係の緊密な連携は、ファミリービジネス特有の密室的経営に繋がってしまいがちです。いわゆるファミリービジネスの非ファミリーメンバーに対する排他性の問題です。親子間で重要な意思決定が行われる場合、どうしても客観的な経営が担保できない可能性が出てきます。番頭が経営に参画することによって、第三者的視点を意思決定に反映することができます。

 

筆者の事例研究においても、重要な経営の意思決定の際には必ず親子関係以外の経営幹部を関与させている企業が複数存在していました。それだけではありません。番頭とはファミリービジネスの経営者に対する経営上の牽制と規律づけ(企業統治)の役割を担う可能性も秘めているといえるでしょう。

 

【図表】番頭による仕事世界における親子関係の補完

(出所)落合(2014)の図54(p. 172)および落合(2016)の図表8-2(p. 168)を参考に、筆者が加筆。
出所:落合(2014)の図54(p. 172)および落合(2016)の図表8-2(p. 168)を参考に、筆者が加筆。

親子関係の過度な持ち込みを回避し、組織秩序を維持

第二に、ファミリービジネスにおける組織の秩序維持の役割があります。ファミリービジネスの経営者は、後継者に対して純粋な親子関係と仕事世界における上司部下の関係の二つの顔をあわせ持ちます。その為、経営者は仕事世界に純粋な親子関係を持ち込んでしまいがちです。そのような複雑な状況の中で、番頭は仕事世界における親子関係を補完する重要な役割を担っています。

 

例えば、後継者から経営者への指揮命令系統があげられます。具体的には、後継者が直接経営者に報告・提案するのではなく、後継者が番頭を経由して経営者に報告・提案する形態にすることで、組織における上司・部下の関係を堅持することができます。

 

これは、仕事世界における過度な親子関係の持ち込みの回避に繋げることができるかもしれません。それだけではありません。従業員の代表としての番頭が経営者と後継者との排他的関係に介在することによって、従業員経営への参画意識を高める可能性もあります。結果として、ファミリービジネスにおける組織秩序の維持に繋げることが期待できます。

 

このように、番頭とはファミリービジネス経営者の親子関係の消極的側面を補完しつつ、積極的側面を促進してくれる重要な存在といえるでしょう。

 

<参考文献>

『老舗学の教科書』(前川洋一郎・末包厚喜編、同友館、2011年)

『ファミリービジネスの事業継承研究:長寿企業の事業継承と後継者の行動』(落合康裕、神戸大学大学院経営学研究科博士論文、2014年)

『事業承継のジレンマ:後継者の制約と自律のマネジメント』(落合康裕、白桃書房、2016年)

本連載は書下ろしです。原稿内容は掲載時の法律に基づいて執筆されています。

「相続・事業承継」この記事を読んだ方はこんな記事も読んでいます

「事業承継」この記事を読んだ方はこんな記事も読んでいます

連載円滑な世代交代を実現――事業承継の要諦

日本経済大学 経営学部 准教授 名古屋商科大学大学院 マネジメント研究科 客員教授

1973年神戸市生まれ。神戸大学大学院経営学研究科博士後期課程修了。博士(経営学)。経営学者。
大和証券(株)入社後、本社人事部、大和証券SMBC (株)金融法人部をへて、2014年より日本経済大学経営学部(東京渋谷キャンパス)准教授就任。ファミリービジネス学会理事。
現在、ファミリー企業の事業承継について経営学の観点から研究を行う。大学での研究活動を軸に、ビジネススクールにおけるケースメソッド形式による事業承継講座を担当するほか、企業の事業承継に関する助言指導や実務家向けセミナーの講師などを務める。2015年末に日本で初めてとなる同族経営の実証研究書となる『ファミリービジネス白書』を同友館から発刊。同書の初代企画編集委員長を務める。

著者紹介

事業承継のジレンマ

事業承継のジレンマ

落合 康裕

白桃書房

【2017年度 ファミリービジネス学会賞受賞】 【2017年度 実践経営学会・名東賞受賞】 日本は、長寿企業が世界最多と言われています。特にその多くを占めるファミリービジネスにおいて、かねてよりその事業継続と事業承継…

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

登録していただいた方の中から
毎日抽選で1名様に人気書籍をプレゼント!