仕事と親子 ファミリービジネスで悩ましい二重の関係性

前回は、ファミリービジネスに入社した後継者の育成における「初期の仕事経験」の重要性について取り上げました。今回からは数回にわたって、後継者のファミリービジネス入社後における現経営者との関係について考えていきます。

上司と部下の関係を「飛び越えた言動」は秩序を乱す

ファミリービジネスでは、現経営者(親)と後継者(子)の関係には二つの関係が内蔵されています。

 

一つは、一般的な家庭と同様に、純粋な親子関係のことです。

 

二つ目は、仕事世界における上司と部下の関係のことです。一般企業では、主に仕事世界における関係が中心となりますが、ファミリービジネスでは純粋な親子関係と仕事世界における関係をマネジメントする必要があります。

 

筆者の事例研究によると、事例企業の多くがファミリービジネスにおける親子関係のマネジメントに苦慮していることが示されています。

 

例えば、某資材メーカーでは、後継者が仕事現場で現経営者のことを「おやじ」と呼んでしまったケースがありました。この事例では、現経営者が多くの従業員が見ている前で「社長と呼ばんかい」と後継者を強く叱責していました。

 

また、某酒造メーカーでは、後継者が事務所で現経営者に業務指示に対して口答えをするケースがありました。この時は、現経営者の弟が状況を見かねて後継者を厳しく指導していました。

 

この二つの事例から読み取れることは、後継者が職場に純粋な親子関係を持ち込んでしまっていることがあげられます。職場に親子関係が持ち込まれることの負の効果としては、組織の秩序が保てなくなることです。ファミリービジネスの後継者といえども、現経営者(親)とは仕事世界における上司と部下の関係が存在します。上司と部下の関係を飛び越えた言動は、後継者に許されても、通常一般の従業員には許されない行為です。

 

その為、このような後継者の言動は、モチベーションや組織への帰属意識に悪影響を与えてしまう可能性が高まるでしょう。それだけではありません。このことは、特別扱いされる後継者と特別扱いされない従業員の間に大きな仕事上の距離感を作ってしまうことになり、後継者がファミリービジネスで十分なリーダーシップを発揮できないことに繋がる可能性もあります。

 

【図表】ファミリービジネスにおける親子関係の二重性

出所:落合(2014)の図54(p. 172)および落合(2016)の図表8-2(p. 168)を参考に、筆者が加筆。
出所:落合(2014)の図54(p. 172)および落合(2016)の図表8-2(p. 168)を参考に、筆者が加筆。

気兼ねのない関係がイノベーションを生み出す可能性も

他方、ファミリービジネスの親子関係は、その関係のマネジメント次第によって正の効果も期待することができます。筆者の事例研究によると、ファミリービジネスの現経営者と後継者との間には、率直な意見交換ができる関係が存在することが示されています。

 

例えば、某食品製造業では、重要な意思決定にかかわる内容について、親子間で忌憚のない意見交換がなされているケースがありました。ここからは、後継者が現経営者に対して経営上の異論や対案を示す機会を包含しているといえるでしょう。経営上の異質な意見のぶつけ合いは、イノベーションの発露となる可能性を高めてくれる効果があります。

 

それだけではありません。筆者の事例研究では、現経営者と後継者との間に親子関係があるからこそ、両者の衝突や対立の許容関係があることも示されています。通常、一般企業における経営上の異質な意見のぶつけ合いは、企業の分裂や内部の派閥闘争を生じさせてしまう可能性を秘めています。

 

他方、ファミリービジネスでは、親子関係があるからこそ、多少の世代間における衝突や対立が許容されているといえるかもしれません。その意味でファミリービジネスとは、一般企業と比較すると、経営上の異質な意見のぶつけ合いが上手に生成・処理される装置が内蔵されているといえるかもしれません。

 

<参考文献>

『ファミリービジネスの事業継承研究:長寿企業の事業継承と後継者の行動』(落合康裕、神戸大学大学院経営学研究科博士論文、2014年)

『事業承継のジレンマ:後継者の制約と自律のマネジメント』(落合康裕、白桃書房、2016年)

本連載は書下ろしです。原稿内容は掲載時の法律に基づいて執筆されています。

日本経済大学 経営学部 准教授 名古屋商科大学大学院 マネジメント研究科 客員教授

1973年神戸市生まれ。神戸大学大学院経営学研究科博士後期課程修了。博士(経営学)。経営学者。
大和証券(株)入社後、本社人事部、大和証券SMBC (株)金融法人部をへて、2014年より日本経済大学経営学部(東京渋谷キャンパス)准教授就任。現在、ファミリー企業の事業承継について経営学の観点から研究を行う。大学での研究活動を軸に、中小企業の事業承継コンサルティング、承継計画の策定、事業承継に関するセミナーなどに従事する。2015年末に日本で初めてとなる同族経営の実証研究書となる『ファミリービジネス白書』を同友館から発刊。同書の初代企画編集委員長を務める。

著者紹介

連載円滑な世代交代を実現――事業承継の要諦

事業承継のジレンマ

事業承継のジレンマ

落合 康裕

白桃書房

日本は、長寿企業が世界最多と言われています。特にその多くを占めるファミリービジネスにおいて、かねてよりその事業継続と事業承継が大きな課題とされており、研究テーマとしても注目を集めつつあります。 本書はこの問題を…

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

登録していただいた方の中から
毎日抽選で1名様に人気書籍をプレゼント!
会員向けセミナーの一覧