今回は、「国税局」と「税務署」の違いについて説明します。※本連載では、元国税実査官・佐藤弘幸氏の著書『国税局資料調査課』(扶桑社)の中から一部を抜粋し、一般的に知られることがない「国税局資料調査課」の仕事の実態を紹介します。

12の国税局のなかでも「東京国税局」は別格

12の国税局のなかで、法人数も税収も圧倒的に多い東京は別格だ。東京国税局は東京都、神奈川県、千葉県および山梨県を所管しており、3000人ほどの職員が配置されている。税務署も合わせた総職員数は約1万5500人にのぼるので、約2割が東京国税局に所属していることになる。それだけ大きな組織だと、優秀な人でも幹部ポストにあぶれることがあるため、東京国税局の職員は地方国税局や地方国税局内の税務署の幹部ポストに就くことも珍しくない。

 

国税局は管轄区域内の税務署の指導監督を担うが、国税職員は国税局を「本店」、税務署を「支店」と呼んでいる。命令系統は当然、本店から支店へと流れていく。

 

国税局内にも部署による序列があり、総務課、人事課、法人課税課や個人課税課などの主管課がエリートコースとされている。ここに入り込むのは至難の業だが、一度エリートコースに入って能力をそれなりに発揮できれば、幹部への登用が約束される。ただし、心身ともに激務に耐えることができるタフさが必要だ。

 

人間誰しもそうだが、指導監督されるよりは指導監督する側にいたいもの。しかし、税務署で地道にがんばっていれば出世できるかというと必ずしもそうではない。税務署に居続けるようでは、とうてい出世は望めない。出世するためには、若いうちに財務省、国税庁、国税局といった上級官庁に潜り込まなければならない。

 

では、どうすれば国税局に行けるのか。税務大学校の成績や税務署の現場での勤務評定が国税局への異動につながる。組織のマネジメントや大きな案件の調査などの経験を積み、配属された部署のプロパーとして認められる必要がある。

 

しかし、それだけでは十分ではなく、実は運による部分も大きい。

 

勤務評定は上司がするが、その上司に「力」がなければ、出世コースへ推薦することもできない。組織が大きいだけに、派閥争いが存在するのだ。

 

おもしろいところでは、結婚式の仲人をお願いした幹部に「力」があること、幹部の子と結婚すること、あるいは自分の親が幹部だと〝大人の事情〟で出世コースに乗ることがある。

 

いずれにせよ、自分の上司がエリートコースにいることが、いちばんの理想である。そのような上司に認められれば、翌年かそれに近いタイミングで、上級官庁に行ける可能性が高まる。逆に、一度勤務評定で「バツ」をつけられると、冷や飯を食い続けることになりかねない。

 

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「マルサ」で知られる査察部は特殊なセクション

力関係では国税局のほうが上だといっても、税務に携わる職員のすべてが税務署職員を指導監督するわけではない。職名を見るとその違いがわかる。

 

税務署職員を指導・監督するのは、「実査官」だ。調査官や徴収官という職員は、自分の担当する案件について調査・徴収するだけで、税務署職員を指導監督することはできない。主管課のほかに実査官と呼ばれる職に就けるのは、本書のテーマである資料調査課員である。

 

国税局で課税実務に関わる部署は課税部、調査部および査察部であり、税務署では対処できないような案件を扱う。

 

調査部は資本金1億円以上が対象なので、全法人の2%にも満たない。東京国税局管内の法人数は約96万社だが、調査部のターゲットとなるのは上場企業をはじめとする1万数千社程度。これに税務署が関わることはない(源泉所得税を除く)。

 

「マルサ」で知られる査察部はもっと特殊だ。国税犯則取締法という法律に基づいて調査をするが、マルサは課税部が保有する資料情報をそのまま使うことはできない。査察部は刑事責任を追及する部署なので、行政手続き上の資料を持ち出すのは違法になるおそれがある。したがって、査察部内で独自に内偵を行い事件の企画をする必要がある。同じ国税局にありながら特殊なセクションなのである。

 

査察部は一罰百戒の大義のもとに脱税した人間を検察庁に告発。最終的には、検察官が起訴するかを判断する。東京国税局では、年間100件ほどを扱う。
 

一方、課税部は国税局内で担当する案件のほかに、東京国税局管内の全84税務署が行う調査の指揮・監督をするセクションでもある。コメの調査は、国税局単独事案を原則とする。案件によっては税務署と共同で調査を進めるが、その過程で税務署職員に調査方法を教えるというOJT(実務研修)的な意味合いも強い。

 

 

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