国税局で「最も過酷な部署」といわれる資料調査課(コメ)

今回は、国税局で資料調査課(コメ)が最も過酷な部署といわれる理由を説明します。※本連載では、元国税実査官・佐藤弘幸氏の著書『国税局資料調査課』(扶桑社)の中から一部を抜粋し、一般的に知られることがないその「国税局資料調査課」の仕事の実態を紹介します。

服装は白シャツが基本、スーツも必須

コメの現場は過酷である。それゆえに、30代の比較的若い層が実査官として配属される。組織のマネジメントは軍隊式で、上司の言うことは絶対だ。

 

1998年、私が初めてコメに配属されたとき、着任するとすぐに先輩実査官に御徒町のカバン専門店に連れていかれた。そこでカバンを買わされた。A4サイズが縦に2列入る、とにかく大きくて頑丈なカバンだ。

 

調査先では証拠資料をコピーするが、その量は膨大だ。紙は意外と重い。そのうえ私がいた当時は、東京国税局管内の1都3県の地図を必ず持ち歩いていた。今のようにスマホのGPSで検索というわけにはいかないので、地図だけで4冊も持ち歩いていたのだ。それに主要エリアの住宅地図のコピーも必ず持っていた。

 

携帯電話は支給されるが、インターネットやメールができないガラケーだった。ノートパソコンも支給されたが、ネットワークへの接続は禁止。国税局では、徹底した情報管理を敷いていた。

 

いきなり「沖縄に調査に行ってこい」というように調査に飛ばされることがあるので、お泊まりセットも準備していた。ある日、エレベーターホールにある体重計にカバンを乗せてみた。すると、ゆうに10キロを超えていた。これでは背骨が曲がってしまうと思った。服装に関しても厳しかった。

 

規定があるわけではないが、白シャツが基本で、スーツは必須。ブレザーやボタンダウンシャツは許されない。夏でもシャツは第一ボタンまで留めなければならなかった。今と違って、クールビズもあったもんじゃない。

 

コメに異動する直前まで、私は税務署で法令審査に関する部署にいた。署内で調査事案のチェックや企業相手の税務説明会をするのが仕事だったので、カラーシャツしか持っていなかったが、コメに異動になってから、まずそのことで叱られたのには驚いた。人事異動後の最初の週末に、慌てて紺のスーツと白シャツを買いにいったものだ。

 

着任したときに机の中に「実査官マニュアル」という冊子が入っていた。スラックスにはピシッと線が入っていなければならない、靴は常に磨いておかなければならないなど、とにかく細かく、「常に紳士たれ」みたいなところがあった。

 

あるとき、白いワイシャツの下に黄色いTシャツを着てきた者がいた。コメのルール以前の問題で、ビジネスマンとしてセンスがない。「白にしろ」と注意したら、次の日にグレーのTシャツを着てきたので、みんながキレたということがあった。

 

しかもその男は調査能力もさほど高くなかったので、1年でコメから退場させられた。

 

1年で国税局から追い出されると、人事評価にバツがつくので、税務署に戻ってもなかなかいいポストには就けない。

プライベートな時間もないことがあたり前!?

外で上司と行動を共にするうえでも、厳しい不文律があった。

 

移動中は先輩や上司の前を歩くことは許されない。食事の際には、奥に座ることはご法度。先に箸をつけることも許されなかった。

 

私たちのころは、上司に毎晩飲みに付き合わされた。コメの序列は実査官、主査、総括主査、課長の順に職位が高くなっていくが、ヒラである実査官にとってのボスは主査。最初の文字を取って「ヌシ」と呼ばれるが、実査官はこのヌシとしか話すことができない。

 

ヌシが酒飲みだと大変だ。夜9時ごろに現場を引き揚げ、そこから食事を兼ねた反省会。怒鳴られまくって、12時くらいになってようやく解放される。帰宅は深夜1時を過ぎることもざらだ。遠征で泊まりになることもある。どんなに帰りが遅くなっても、翌日は朝5時に起きて現場に向かう。

 

もちろん、「ノー」とは言えない。そんなことを言えば、たちまち次の年の人事異動でどこかに飛ばされてしまう。主査は人事における第一評定者であり、自分の国税マンとしての将来を決めるキーマンなのだ。

 

調査期間中はこんな日々が続く。とても平日だけでは仕事の時間が足りないので、土日も調査に充てることがしばしばだ。独身職員はデートの時間がなく、次の調査先の内観調査や外観調査のためにデートを兼ねて準備調査をしている者が少なくない。そうでもしないと、ワーク・ライフ・バランスが保てないからだ。

 

一件の調査に1週間を要するが、1年間に25件前後の事案を取り扱うので、1年の多くが、プライベートもないような生活になる。しかし、人間の環境適応能力は素晴らしいもので、5週も続けると体も頭もマヒしてくる。それこそ貝のように、淡々とやり過ごすのだ。

 

マルサも厳しい現場を経験するが、コメは国税局のなかでも最も過酷な部署だといっていいだろう。

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連載元国税実査官が明かす「国税局資料調査課」の実態

ティ・オー・ビー税理士事務所 代表
税理士 

1967年生まれ。東京国税局課税第一部課税総括課、電子商取引専門調査チーム(現在の統括国税実査官)、統括国税実査官(情報担当)、課税第二部資料調査第二課、同部第三課に勤務。主として大口、悪質、困難、海外、宗教、電子商取引事案の税務調査を担当。退官までの4年間は、大型不正事案の企画・立案に従事した。2011年、東京国税局主査で退官。

著者紹介

国税局資料調査課

国税局資料調査課

佐藤 弘幸

扶桑社

マルサでも手出しできない巨悪脱税事件では、ときに国税OBが裏で糸を引いていることもある。それらを調査する国税局資料調査課、通称「コメ」の真実を初めて明らかにする!

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