前回は、損害保険料率算出機構の問題点を考察しました。今回は、後遺障害の審査を行う損害保険料率算出機構の、「損害調査部門」の内情を探ります。

損保からの転職者が多い損害調査部門

損害保険料率算出機構の損害調査部門だが、実際のところどのように仕事が進められているのだろうか。後遺障害の申請がなされると同機構の担当者は、申請者から提出された後遺障害診断書や治療の明細をチェックし、後遺障害等級案を作る。

 

それを認定課長が見て決裁して後遺障害等級が確定する。この段階で被害者に面談して話を聞くということはない。レントゲンやMRIなどの画像資料については、顧問医が読影して等級判定の参考にするようだが、いずれにしても書面主義であり、事務的でシンプルな認定過程である。

 

認定担当者には損保料率機構の生え抜きもいるが、多くは損害保険会社からの中途採用者であり、そのほとんどが50歳代での転職だという。担当者は年間で約300件の事案を担当するというから、仕事量はかなりのものである。

 

個別案件にじっくり関わっている時間などなく、事務的に処理しないと追いつかない。そこで、提出された医師の診断書をもとに先ほどの内部基準に照らして、その要件を満たすか満たさないかで機械的に振り分けていくことになる。

 

とにかく余計な斟酌をせず、お役所仕事的にこなしていくほうが無難だし、組織からもそれが求められている。損害調査に志を抱いて転職したとしても、次から次へ増えていく仕事と、画一的な業務にやがて機械のようになっていく・・・そのような職場であるらしい。

 

そのため、この資料があれば等級認定が出るからという形で追加資料を促されることもない。資料がなければ要件を満たさないということでバッサリと切り捨てられる。

 

また認定結果を伝える書面も実にあっさりとしたものである。1枚の紙に結論とごく簡単な理由を記載してあるだけだ。被害者にとっては一生を左右する問題だが、あまりに素っ気ない結果報告に不快な思いを抱く被害者も少なくない。

ハードな仕事にもかかわらず、実は立場が弱い部署!?

自賠責保険に関しては交通事故被害者に対して薄く広く、かつ素早く賠償を行うことが求められている。最低限の補償という意味で社会保障的役割があることはすでに述べた。その制度上の性質ゆえに、迅速で画一的な等級認定と事務処理が必要になることはもちろん理解できる。

 

ただし、社会保障的意味合いが強いのであれば、現場にもう少し裁量を与え、丁寧で親切な対応があってもいいのではないだろうか。

 

現状の同機構の等級認定のやり方を見ると、制度上の問題もさることながら同機構の組織的な問題のほうが大きいように感じられる。1人の担当者が年間300件を担当すれば、当然処理スピードを確保するために個別案件に関わってはいられない。

 

そのような物理的にハードな仕事を課されているにもかかわらず、実は損害調査部門は同機構の中では立場が弱い部署だそうだ。それよりも基準料率や参考料率を算定する部署のほうが花形とされる。

 

というのも、それらの料率は前述したように損保業界全体の収益や方向性を左右するものだからだ。それに携わる部署の人間はおそらく業界のトップエリートであり頭脳集団である。

 

対して損害保険調査部門、すなわち後遺障害の等級認定をする仕事はそれ自体が利益を生む部門ではない。申請書類を処理する事務的な仕事である。どうしても社内の立場は弱いものになる。その証拠に損害調査部門出身者が同機構内で出世する機会は少ないそうだ。理事になるのは料率の算定をする部門からというのが、これまでの通例だという。

 

しかし、私たちからすれば、損害調査部門こそ、133万件の交通被害者の叫びを受け止め、損害保険の社会的意義を実現する部門である。そして、医療証拠を精査検討し、適正な損害を認定する高度な専門知識を有する部門なはずである。

 

このような部門こそ花形部門でなくてはならないと考える。

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    本連載は、2015年12月21日刊行の書籍『虚像のトライアングル』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

    虚像のトライアングル

    虚像のトライアングル

    平岡 将人

    幻冬舎メディアコンサルティング

    自賠責保険が誕生し、我が国の自動車保険の体制が生まれて約60年、損害保険会社と国、そして裁判所というトライアングルが交通事故被害者の救済の形を作り上げ、被害者救済に貢献してきたが、現在、その完成された構図の中で各…

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