新たな資金調達スキームとして注目される「事業の自己信託」

民事信託の活用法を事例ベースでご紹介してきた本連載も、今回が最終回となります。最終回は多少難易度の高いものの、事業の資金調達において今後の普及が期待される信託をご紹介します。

有望な新規事業のために資金を調達したいが…

起業家・経営者の方々にとって、事業資金の調達は永遠の課題です。アイディアはある、ノウハウもある、でも金融機関からの借入れのためには担保や個人信用が必要、大口の出資者を見つけるのも大変・・というのがありがちなケースです。

 

大手金融機関であれば、事業の収益性や事業財産のみを担保とする、いわゆるノンリコースローンを検討することもあり得ますが、不動産事業以外ではまだまだ一般的ではないというのが実情でしょう。

 

ノンリコースローンの場合、返済原資を貸付け対象事業に限定するために、SPCと呼ばれる新規事業のためだけの会社を新設することが通常です。その際には、事業に必要な許認可や知的財産権を、新会社にて取得しなければならないことがひとつのハードルとなります。また、前述のとおり、収益の見通しが立てやすい不動産事業を除いて、金融機関の了承を得られるケースはなかなかありません。

「事業信託+自己信託」でノンリコースローンを実現

そこで信託の倒産隔離機能を活用するのが今回の事例です。

 

平成18年の信託法の改正により、財産だけでなく債務も受託者に引き継ぐことができるようになりました。これにより、特定の資産と権利義務によって構成される「事業」そのものを信託の対象とすることが可能になり、「事業信託」と呼ばれたりします。

 

受託者は、信託財産を自己の財産と明確に区分して管理することが求められますので、事業信託の場合は、信託された事業と受託者固有の事業を明確に区分する必要があります。そして、これは委託者=受託者である「自己信託」の場合も同様です。つまり、事業を自己信託することにより、会社は1つでありながら、事業ごとに債権債務を独立させる「倒産隔離」を実現することができるのです。

 

委託者兼受託者である会社は、事業の収益・資産のみを責任財産とする信託受益権を、投資家に購入してもらいます。会社は、投資家からの購入代金をもって事業展開のための資金に当てることができます。投資家も、会社全体の財務状況を考慮することなく、有望と思う事業スキームに対して投資することができます。さらには、受益権を分割して複数の投資家に分配することにより(小口化)、投資家のリスクも低減が可能です。

 

事業譲渡と同様の権利関係の事前調整が必要であること、債権者詐害行為とみなされてはならないこと、50名以上の投資家に分配する場合は信託業法上の登録が必要となることなど、実務上、留意すべき点が多くあり、実用化に向けての理論の蓄積が待たれるところではありますが、「事業の自己信託」は新たな資金調達スキームとして大きな可能性を秘めていると言えるでしょう。

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連載ケースで学ぶ「民事信託」活用術

東雲アドバイザーズ株式会社 コンサルティング事業部マネージャー

東京大学法学部卒。司法書士。2009年より現職。
中小企業オーナー等の資産家向けに、相続・事業承継のアドバイザリー業務を主に担当。信託のほか、不動産や法人化を活用した各種スキームを提案。その他、企業の組織再編スキーム構築、非営利法人の許認可コンサルティング等を多数受託。
東雲アドバイザーズ株式会社は、司法書士を中心に、弁護士、行政書士、土地家屋調査士、不動産鑑定士、宅地建物取引士等によるリーガルワンストップサービスを展開する東雲グループ(http://snnm.jp/)のコンサルティング会社。

著者紹介

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