相続・事業承継 信託
連載ケースで学ぶ「民事信託」活用術【第8回】

2代先までの資産承継を設計できる「後継ぎ遺贈型信託」とは?

民事信託後継ぎ遺贈型信託

2代先までの資産承継を設計できる「後継ぎ遺贈型信託」とは?

前回は、民事信託の財産管理機能について説明しました。今回は、2代先までの資産承継を設計できる「後継ぎ遺贈型信託」の概要と、活用する際の留意点について見てきます。

遺言で決められるのは「自分の資産の承継」まで

地方の旧家であるX家は、地元に多数の不動産を所有するいわゆる「名士」です。X家の現在の当主であるAさんも、貸地や貸家等の収益用不動産を多数所有しています。この地域では古くからの家督相続の意識が強く、Aさんも自分の死後は長男に資産を継がせて、その後も長男の家系に代々受け継いでいってもらいたいと考えています。

 

Aさんは高齢で、奥さんもすでに他界、長男であるBさんは一族の賃貸不動産の管理を行っており、長女のCさんは夫とともに一族の所有地の一つを借りて会社を経営しています。

 

将来Aさんが亡くなった際に、長男Bさんに一族の収益用物件を承継させるためには、遺言という方法があることは皆さんもご存じでしょう。しかし、その次のBさんの死後に、Bさんの長男に資産を承継させることまでは、Aさんが決めることはできません。Bさんの資産の承継は、あくまでBさんが決めることだからです。ここに遺言の限界があります。

2代先までの資産の承継を決められる「後継ぎ遺贈」

そこで、「信託」の出番です。これまでの連載でも時折触れてきましたが、信託の「受益者」は、最初(信託設定時)の受益者を「第1受益者」、第1受益者が亡くなった後の受益者を「第2受益者」、第2受益者が亡くなった後は「第3受益者」というように、受益者の立場の承継を信託設定当初に設計することができます。

 

この機能をうまく活用することにより、自分の相続人の相続人、つまり2代先までの資産の承継を実質的に決めておくことが可能になります。このような信託は、「後継ぎ遺贈型」信託と呼ばれています。

 

今回の事例で言えば、次のような信託契約の設計ができるでしょう。

 

●Cさん夫婦が会社経営で使用している土地以外の賃貸不動産すべてを信託財産とする信託契約を設定する。

 

●委託者はAさん、受託者は新設する資産管理用の一般社団法人、第1受益者をAさん、第2受益者をBさん、第3受益者をBさんの長男とする。

 

第3順位までの受益者を設定することにより、資産の経済的価値の承継を2代先まで指定できます。また、一族を社員・役員とする一般社団法人を受託者とすることにより、X家一族による永続的な資産管理が可能になります(第3回連載参照)。

期間制限、遺留分…「後継ぎ遺贈型信託」の留意点

遺言では実現できなかった「後継ぎ遺贈」を設計できる信託ですが、活用の際にはいくつか留意点があります。

 

まず、信託の期間制限の問題です。後継ぎ遺贈型信託は、長期にわたって関係人に法的拘束力を及ぼすことになるため、無制限にその効力を認めると将来の権利関係をいたずらに複雑化させることになりかねません。そのため法律は、後継ぎ遺贈型の信託が効力を持つ期間を「信託設定後30年経過時の受益者の次の受益者が死亡するときまで」と制限しています。

 

また、後継ぎ遺贈型信託の場合でも、遺留分の問題は残ります。この事例では、第2受益者をBさんとすることによってCさんの遺留分が侵害された場合は、Cさんは遺留分減殺請求をすることができます。Cさんの遺留分に抵触する場合は、第2受益者の一部をCさんとするなどの調整が必要でしょう。

 

いずれにしても、何年も先までの資産承継を決定することになりますので、「後継ぎ遺贈型信託」には綿密な設計が必要です。

内田 晋太郎

東雲アドバイザーズ株式会社 コンサルティング事業部マネージャー

東京大学法学部卒。司法書士。2009年より現職。
中小企業オーナー等の資産家向けに、相続・事業承継のアドバイザリー業務を主に担当。信託のほか、不動産や法人化を活用した各種スキームを提案。その他、企業の組織再編スキーム構築、非営利法人の許認可コンサルティング等を多数受託。
東雲アドバイザーズ株式会社は、司法書士を中心に、弁護士、行政書士、土地家屋調査士、不動産鑑定士、宅地建物取引士等によるリーガルワンストップサービスを展開する東雲グループ(http://snnm.jp/)のコンサルティング会社。

著者紹介

連載ケースで学ぶ「民事信託」活用術

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