「金融引き締め=株価にマイナス」は正しくない…投資のプロが世の中の日銀批判を“言いがかり”と切り捨てるワケ

「金融引き締め=株価にマイナス」は正しくない…投資のプロが世の中の日銀批判を“言いがかり”と切り捨てるワケ
(※写真はイメージです/PIXTA)

先月末の金融政策決定会合で、日銀が昨年12月に続き2度目の「YCC政策変更」を決めました。これに対し、「財政規律を弱める」「円暴落を引き起こす」といった批判がありますが、株式会社武者リサーチ代表の武者陵司氏はこれを否定します。その根拠とは? 詳しくみていきましょう。

YCCの“出口”に向かう日銀

2度目の「YCC政策変更」の影響は

7月28日、日銀はYCC(イールドカーブコントロール)政策の変更を発表した。昨年12月に続く2回目のYCC変更である。

 

金利には政策によって決定される短期金利と市場が決める長期金利があるが、2016年に導入されたYCCは本来市場で決まる長期金利をも当局がコントロールするというものである。それ以降、日銀が容認する10年国債利回りの上限は0.25%であったが、昨年12月の変更で、0.5%に引き上げられた。

 

今回はそれがさらに1.0%に引き上げられた。市場の裁量の余地を拡大させたのであるから、日銀がどう説明しようともYCCの出口へ向けての歩を進めたことは疑いない。

 

昨年12月以降10年国債利回りは0.25%以下から0.4~0.5%のレンジにシフトしたが、今回の決定によって、さらに水準を切り上げると想定される。政策変更後1週間で0.65%まで上昇しており、今後は日銀のオペレーション次第だが、0.5%~1.0%のあいだで推移していくものとみられる。

 

[図表1]日本の10年国債利回りと短期金利推移
[図表1]日本の10年国債利回りと短期金利推移

 

金融引き締めは株価やリスクテイクにとってマイナスではない

これは明白な利上げだから金融引き締めに転じたこととなり、株価やリスクテイクにマイナスになるとの評価がなされているが、それは正しくないだろう。

 

第1に、今回の変更は日銀が目標にしていた2%インフレに近づいたことによってなされたもの、つまりより望ましい経済状態に近づいたのであるから、これはプラスである。

 

第2に、CPI急上昇により実質金利は大きく下落しており、それは金融緩和効果を強めることになる。日銀による食料品、エネルギー価格を除くCPI予想(中央値)は2023年度3.2%と1年前時点での予想に比べて1.8ポイント上昇しており、今回の利上げをもっても実質金利は下落することになる。

 

政策変更後に日経平均株価は(米国国債格付けの引き下げによる米国株安もあり)3%、1,000ポイントほど下落したが、早晩落ち着きを取り戻すものと思われる。

 

YCCの出口が見えてきた

いずれにしても本来市場で決まる長期金利を日銀がコントロールするYCCはいつまでも続けてよい金融政策ではない。長期金利がマイナスに陥るという異常事態に対応した奇策であったのであり、事態が変われば止めるべき政策である。

 

いまや経済市場環境はデフレリスク、金利低下リスクが消え、インフレ、金利上昇リスクへとシフトしているのであるから、YCCの枠組みの変更が必要になっている。

 

いまのところYCCそのものの副作用は小さく、持続することに問題はない。しかし、ひとたびインフレ圧力や円安圧力に対して日銀が後手に回ったと市場が判断すれば、強烈な日本国債売り、円売りの投機が起き市場が大混乱に陥る可能性がある。

 

そうなる前に日銀は市場の期待に先行して金融政策を修正していかなければならない。昨年12月、今年7月のYCCの修正は、準備周到な出口への誘導と考えられよう。

 

[図表2]消費者物価上昇率(生鮮食品を除く)と日銀による予想
[図表2]消費者物価上昇率(生鮮食品を除く)と日銀による予想

 

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※本記事は、武者リサーチが2023年8月7日に公開したレポートを転載したものです。
※本書で言及されている意見、推定、見通しは、本書の日付時点における武者リサーチの判断に基づいたものです。本書中の情報は、武者リサーチにおいて信頼できると考える情報源に基づいて作成していますが、武者リサーチは本書中の情報・意見等の公正性、正確性、妥当性、完全性等を明示的にも、黙示的にも一切保証するものではありません。かかる情報・意見等に依拠したことにより生じる一切の損害について、武者リサーチは一切責任を負いません。本書中の分析・意見等は、その前提が変更された場合には、変更が必要となる性質を含んでいます。本書中の分析・意見等は、金融商品、クレジット、通貨レート、金利レート、その他市場・経済の動向について、表明・保証するものではありません。また、過去の業績が必ずしも将来の結果を示唆するものではありません。本書中の情報・意見等が、今後修正・変更されたとしても、武者リサーチは当該情報・意見等を改定する義務や、これを通知する義務を負うものではありません。貴社が本書中に記載された投資、財務、法律、税務、会計上の問題・リスク等を検討するに当っては、貴社において取引の内容を確実に理解するための措置を講じ、別途貴社自身の専門家・アドバイザー等にご相談されることを強くお勧めいたします。本書は、武者リサーチからの金融商品・証券等の引受又は購入の申込又は勧誘を構成するものではなく、公式又は非公式な取引条件の確認を行うものではありません。

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