「金融引き締め=株価にマイナス」は正しくない…投資のプロが世の中の日銀批判を“言いがかり”と切り捨てるワケ

「金融引き締め=株価にマイナス」は正しくない…投資のプロが世の中の日銀批判を“言いがかり”と切り捨てるワケ
(※写真はイメージです/PIXTA)

先月末の金融政策決定会合で、日銀が昨年12月に続き2度目の「YCC政策変更」を決めました。これに対し、「財政規律を弱める」「円暴落を引き起こす」といった批判がありますが、株式会社武者リサーチ代表の武者陵司氏はこれを否定します。その根拠とは? 詳しくみていきましょう。

量的金融緩和の修正としてのYCC

しかし2014年の5%から8%への消費税増税、2015年のチャイナショックによる世界的景気減速とデフレ圧力の高まりにより世界的に長期金利が大きく下落、一時は世界全体の長期国債利回りの3割強がマイナスに陥るという事態となった。日本の長期金利も2016年には0%以下に下落した。

 

銀行経営は短期金利で資金を調達し長期金利で資金を運用し、両者の利ザヤを得ることで成り立っているため、長期金利がマイナスになると経営が成り立たなくなる。

 

この銀行救済のための苦肉の策が2016年9月に導入されたYCC(イールドカーブコントロール)である。短期金利をマイナス(▲0.1%)に10年国債利回をプラスに(0から0.25%)に固定化することで、銀行の利ザヤが確保された。

 

ここで問題が生じた。マイナスの長期金利を押し上げるためには、量的金融緩和にブレーキをかけ、国債購入を減らさなければならない。それを市場が金融緩和の後退ととらえれば、円が急騰しデフレを深刻化してしまう恐れがある。

 

日銀は苦肉の策として、金融緩和の手段を再び金利政策に移し、量的金融緩和の縮小が円高に結びつかないような手立てを講じたのである。2016年まで日銀の理事として政策に関わったみずほリサーチのエグゼクティブエコノミストの門間一夫氏は、その新たな金融緩和政策の枠組みがYCCであったと解説している。

 

2016年当時、日銀の資産増加ペースにブレーキがかかっていることを訝しく感じたエコノミストは武者リサーチをはじめ多数いたが、それが量的金融緩和の後退とは誰も主張しなかった。日銀が新次元の金融緩和としてYCCを大々的に宣伝したことで、目くらましを食らったのである。よって日銀の資産購入の手控えが円高圧力として認識されることもなかった。

 

[図表7]日本の10年国債利回りと政策金利推移
[図表7]日本の10年国債利回りと政策金利推移

証明される日銀の「当事者能力」

このような経緯で生まれたYCCは、長期金利が恒常的にプラスになり、むしろ上昇圧力が強まっている現在、歴史的役割はほぼ終えているといえる。

 

周到な準備の下、秩序だった出口への誘導としての2回のYCCの変更は、日銀が十分な対応能力を持っていることを示した。1992年英国イングランド銀行はジョージ・ソロスの投機に負けてERM(欧州為替相場メカニズム)からの離脱を余儀なくされた。当時のイングランド銀行は利下げによる景気対策と、ERMが求める通貨高の維持の2律背反状況に追い込まれていたが、いまの日銀にそのようなディレンマは存在していない。

 

なお異次元の金融緩和やYCCに対する批判として、①ゾンビを温存させる、②財政規律を弱める、③資産バブルを作る、④円暴落を引き起こす、等が挙げられているが、それらは言いがかりに近いものが多く、また切実なものではまったくなく、当面の日銀の政策遂行の妨げにはならない、と付言しておく。

 

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武者 陵司

株式会社武者リサーチ

代表

 

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※本記事は、武者リサーチが2023年8月7日に公開したレポートを転載したものです。
※本書で言及されている意見、推定、見通しは、本書の日付時点における武者リサーチの判断に基づいたものです。本書中の情報は、武者リサーチにおいて信頼できると考える情報源に基づいて作成していますが、武者リサーチは本書中の情報・意見等の公正性、正確性、妥当性、完全性等を明示的にも、黙示的にも一切保証するものではありません。かかる情報・意見等に依拠したことにより生じる一切の損害について、武者リサーチは一切責任を負いません。本書中の分析・意見等は、その前提が変更された場合には、変更が必要となる性質を含んでいます。本書中の分析・意見等は、金融商品、クレジット、通貨レート、金利レート、その他市場・経済の動向について、表明・保証するものではありません。また、過去の業績が必ずしも将来の結果を示唆するものではありません。本書中の情報・意見等が、今後修正・変更されたとしても、武者リサーチは当該情報・意見等を改定する義務や、これを通知する義務を負うものではありません。貴社が本書中に記載された投資、財務、法律、税務、会計上の問題・リスク等を検討するに当っては、貴社において取引の内容を確実に理解するための措置を講じ、別途貴社自身の専門家・アドバイザー等にご相談されることを強くお勧めいたします。本書は、武者リサーチからの金融商品・証券等の引受又は購入の申込又は勧誘を構成するものではなく、公式又は非公式な取引条件の確認を行うものではありません。

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