前回は、製造業のM&Aにおいて売却成功のカギを握る「技術力」と「人材」について解説しました。今回は、異業種とのM&Aで得られるメリットを見ていきましょう。

別業種とのM&Aでは従業員が守られやすい!?

本連載では縦軸、横軸、斜め軸など、業界は違っても少なくとも製造業の範囲で人材や技術を活かしてもらうということを前提に相手を考えてきました。

 

しかし、相乗効果や売り手側の従業員の待遇、技術の継承といったことを考えると、実は異業種である方がより高い価値をつけてもらいやすいのです。別業種とのM&Aの最大のメリットは、従業員が守られるということです。

 

同業種や類似業種の場合、工場やその設備の確保、生産ラインの拡大、販路の開拓という意味でM&Aをされることがありますが、それらだけが目的という場合には、M&Aの後に、自分たちのやりやすいようにやり方をガラッと変えてしまうということもあるかもしれません。

 

同業ならノウハウもあり設備の使い方もわかっているので、今までの従業員が全員揃っている必要はなくなってきます。特に人材に困っていなければクビを切られる従業員も出てくるかもしれませんし、工場長などといった会社の功労者であっても、自分たちが好なように仕切るための障害になりかねないと解雇されてしまうようなこともあるかもしれません。

 

こういった場合、工場や設備には価値を感じてもらっているかもしれませんが、人材には価値をあまり感じてもらえていないということです。

「中小製造業そのもの」に価値を見出してもらう

その点、別業種の場合には状況が異なります。製造業に対する知識や経験がありませんから、M&Aをした後、経営の仕方も技術の活かし方、顧客とのやりとりも何一つ自分たちだけでは対応できないのです。

 

そうすると、これまでのように事業を継続するためには、最低でも何年かは経営層も含めて従業員全般がいてくれないと成り立ちませんので頼らざるを得ないということになります。つまり、すべて引っくるめた中小製造業そのものに価値を見出してもらっているのです。

 

別業界ならそれぞれできることが違うので、役割分担が明確でその分尊重してもらえます。それが会社としてのやり方や従業員の待遇の維持に繋がるということです。M&Aで従業員を守ることを考えるなら、これは欠かせないポイントとなってきます。

本連載は、2016年4月27日刊行の書籍『中小製造業の社長が知っておきたい会社の売り方』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

中小製造業の社長が知っておきたい会社の売り方

中小製造業の社長が知っておきたい会社の売り方

浅岡 和彦

幻冬舎メディアコンサルティング

自分が高齢になってもその技術や従業員を守っていきたい、自社の技術を信頼してくれる取引先に迷惑をかけたくない──これは中小製造業の社長に共通する願いでしょう。 しかし、社長の思いに反し、多くの会社がいま存続の危機…

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