前回は、建物を法人化した場合に生じてくる、借地権などの問題点について説明しました。今回は、「グループ法人税制」を活用した節税手法を見ていきます。

建物によって「顧問税理士」が違う場合は要注意

都心に商業ビルを保有しているオーナーにもいろいろなタイプがいます。例えば、今回ご紹介する事例では、すでに法人化を実行しており、結果として含み益のある不動産を法人で所有しているものでした。

 

Mさんは法人を2つ所有していて、1つの法人は昔から満室御礼の商業ビルを保有することから黒字続きでしたが、もう1社は飲食店を経営していて、ここ数年は苦戦しています。また、2店舗目を開業するときに店舗用不動産を購入しており、大きな負担となっていました。こうした複数の法人を管理している方にとっては参考になるケースだと思われます。

 

ここでは、黒字法人をA社、赤字法人をB社として話を進めていきたいと思います。

 

まず、こういうケースではよくあることですが、A社とB社で顧問税理士が異なることがあります。複数の税理士に依頼し、いろいろな意見をもらえればという期待を抱きたいところなのですが、実際には、税理士が異なることでA社とB社の情報共有が積極的に行われず、連携もうまく取れていないために、A社、B社トータルでの節税効果、資産効率などの判断ができていないことがよくあります。こちらもまさにそういったケースに当てはまりました。

 

A社とB社の概要を簡単に紹介しておくと、次のようになります。

 

●A社の概要

 

黒字経営で、貸ビルを所有。株主構成はMさんが100%所有。1階を店舗としてB社に貸し出しています。2階から8階は事務所用として満室フル稼働中。毎期安定して利益を計上しており、毎年約2000万円の所得を稼いでいます。法人税は毎年800万円程度納税している状態です。

 

●B社の概要

 

飲食店を2店舗運用していますが赤字。株主構成はやはりMさんが100%。飲食店のうち1軒はA社のビルの1階を借りて営業中。もう1軒は、B社自身が有する不動産にて営業中です。

 

B社は、昨今の不況で飲食店への客足が遠のき業績不振に陥っている状態。A社への支払賃貸料と借入金の返済で資金繰りも悪化しており、早急に再建が必要な状況にあると考えられます。ただし、飲食店は古くからの家業であるため継続したいと考えています。

 

自社不動産(時価5億円、簿価3億5000万円)に対しては、R信用金庫からの借入金5億円が残っており、3期連続して毎年1000万円の赤字を計上。B社単体での返済は限界に来ていると考えられます。

 

こうしたケースは、実は都心部の商業ビルではよく見られることです。先祖代々の店舗を営業している老舗を舞台に、経営と所有は分けたほうがよいという経営ノウハウの流れの中で不動産専業会社(A社)と飲食店を運営する会社(B社)に分離したまではよかったものの、老舗は徐々に時代の波に取り残されて業績不振に陥っていく。そんなパターンが多く、Mさんの会社もその典型的なケースでした。

「グループ法人税制」を活用してシンプルな節税対策を

そこで、筆者が出した結論は「B社で所有する自社不動産および2店舗の事業をA社へ売却してしまう」という方法でした。

 

連載第7回で紹介した「グループ法人税制」が創設される平成21年以前であれば、自社不動産の売却時に発生する含み益に対して法人税が課税されるため、税負担を考慮して「合併」など別の方法を模索しながら、節税方法を実行していました。しかし、グループ法人税制では課税が繰り延べられるため、シンプルな対策が可能となりました。

 

A社は購入にあたって大手のJ銀行に融資の依頼を行い、B社はA社からの売却代金で銀行への債務を返済します。低金利を強みに、好条件を引き出して財務体質の改善を図ることを目指しました。

 

ちなみに、店舗の営業権については赤字であるため発生せず、店舗の内装などについてはその帳簿価額で譲渡するため損益は生じません。

 

[図表]グループ法人税制を使った対策

本連載は、2013年7月29日刊行の書籍『ビルオーナーの相続対策』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

ビルオーナーの相続対策

ビルオーナーの相続対策

川合 宏一

幻冬舎メディアコンサルティング

ビルを所有しているような資産家であれば、顧問税理士をつけて節税も抜かりなくやっていて不思議はなさそうなものですが、実はほとんど有効な手だてを講じていない人が多いのが現実です。 そのため、そのような人は相続税で数…

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