任意後見人として「子供がお勧めできない」理由

前回は、「誰に後見人を任せるか」という問題について説明しました。今回は、任意後見人として「子供がお勧めできない」理由について見ていきます。

利益相反の関係にある「任意後見人」と「相続人」

信頼できる人物というと、よく見知った身内、それも多くの場合は子どもを想定する人が多いようですが、筆者はあまりお勧めしません。というのも、子どもは本人が亡くなった後、相続人になる立場の人だからです。自分が相続人になることを考えた場合、親が自分自身のためにお金を使おうとするのを、やすやすと見逃すことができるでしょうか? 


親がお金を使うということは、その分だけ相続財産が減ることを意味します。つまり相続において、親(本人)と子どもは、利益相反の関係になるわけです。どんなに素晴らしい老後のプランを立て、それを任意契約に盛り込んだとしても、実行されなければ全く意味がありません。その点で筆者は、子どもなどの親族よりも、利害関係のない第三者を任意後見人として選ぶことをお勧めします。


とはいえ、第三者としてどのような人(団体)に頼むのか、ということも大問題です。実際に、どのように任意後見人を選び、そのような流れで契約が進むのか、具体例を挙げてご説明していきましょう。

富裕層による任意後見制度の活用事例とは?

富裕層のご夫婦が、どのように任意後見制度について知り、任意後見人を選んで契約を進めていくのか、事例をもとに見ていきましょう。


【事例・・・プロフィール】


 田中一夫さん・・・昭和25年生まれの65歳
 田中明子さん・・・昭和28年生まれの62歳


一夫さんは、昨年まで大手企業の役員として勤務。明子さんは専業主婦です。東京都区内にある土地70坪の戸建て住宅に、夫婦2人で住んでいます。子どもは32歳の長男と、28歳の次男の2人。ともに既婚、長男一家は現在、アメリカに赴任中で、次男は都区内の妻の実家近くのマンションに住んでいます。


金融資産は1億円。貸しアパートを持っていて、部屋が満室であれば、1年あたり600万円の家賃収入が期待できます。一夫さんは一人っ子、明子さんは兄との2人兄弟で、いずれも両親が健在ですが、一夫さんの父親、明子さんの母親が、いわゆる「まだらボケ」状態で、手分けして週に3回、実家に通う生活がここ2年続いています。

 

田中さんご夫妻は、筆者の元に相続のご相談に見えるお客様たちの最大公約数的なプロフィールをお持ちのご夫妻です。お子さんにも経済的にも恵まれ、資産が多いゆえに「相続が心配」という、一般の人からすれば贅沢な悩みを持った人たちです。


しかし、ご本人たちにしてみると、現状は親の介護に通う生活が続いているため、「毎日が快適」というにはほど遠く、また、自分たちの親の姿を見ていると、「私たちの将来はどうなるのだろう?」という思いがよぎり、将来への不安が募るばかりです。


長男はアメリカ在住で、今後帰国するかどうかは不明。次男は妻の実家の近くに住んでいるので、自分たちの面倒は見てもらえそうもありません。特に、90歳になる一夫さんの父親の認知症の症状が、ここ半年ほどで驚くほど進んでしまったことは、夫妻に大きな衝撃を与えました。一夫さんの父親は、長く大学の教員をしていました。人格的にも知的にも優れた人で、多くの人の尊敬を集めてきた人です。


ところが半年前、自宅で転んで足を骨折し、2週間ほど入院したのをきっかけに、もの忘れが激しくなり、時として長男である一夫さんが誰なのか分からないことがあるほど、一気に認知症が進んでしまったのです。


一夫さんは尊敬してきた父親に、自分にできるだけのことをしてあげたいと思い、できる限り時間をつくって実家に通い、心を込めてお世話をしているつもりですが、時としてある疑問が頭をもたげることがあります。


「果たして自分の父親は、本当にこういう生活を望んでいたのだろうか?」実家の親もそれなりの財産があるので、一夫さんが介護できないときは、ホームヘルパーに頼んで、介護保険が適用されないような部分についてもお世話をしてもらっています。一夫さんも母親も「長年住み慣れた自宅がいいに違いない」と考え、積極的に介護施設への入居を検討することはしてきませんでした。


今となっては父親に確認するすべもありませんが、もしかしたら父親はグレードの高い専門施設に入所して、介護のプロにお世話をしてもらった方が快適なのではないかという気がするのです。また、何よりも、知的でプライドの高かった父親が、自分の老後を自分で決めることができない状況になったことが、一夫さんにはショックなことでした。「自分にもいつかこんな日が訪れるのだろうか」。そう考えると、経済的苦労の有無に拘らず、人生の先行きは決して明るくはないなと、気持ちが沈み込んでくるのでした。

 

次回は、田中夫妻の事例をもとに、任意後見人選任から契約までの4つのステップを見ていきます。

本連載は、2015年11月25日刊行の書籍『老後の財産は「任意後見」で守りなさい』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

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連載老後の財産を守るための「任意後見」活用術

南青山 M’s 法律会計事務所 代表社員 弁護士/公認会計士

弁護士・公認会計士。南青山M’s法律会計事務所代表。芦屋大学経営教育学部客員教授。
1973年愛媛県生まれ。1995年一橋大学経済学部卒業。2006年成蹊大学にて法務博士号取得。1995年監査法人トーマツ(現 有限責任監査法人トーマツ)入社、上場企業の監査、M&A等に携わる。その後、会計事務所、法律事務所勤務等を経て2009年に南青山M’s法律会計事務所を設立。個人、企業にとって身近な法律問題はもちろん、税務問題、会計問題、それらが絡み合う複雑な問題についても、冷静に問題を分析し、依頼者にとって最も利益となる問題の解決方法を提案、実践している。著書に『ドロ沼相続の出口』(幻冬舎)。

著者紹介

老後の財産は 「任意後見」で守りなさい

老後の財産は 「任意後見」で守りなさい

眞鍋 淳也

幻冬舎メディアコンサルティング

昨今、高齢者を狙った詐欺や「争続」が新聞やテレビなどのメディアで盛んに取り沙汰され、老後の財産管理に対する不安が高まっています。高齢になると判断能力が低下してしまい、望まないかたちで財産を失ってしまうケースは多…

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