今回は、多数決を用いている面白い事象として、人間の脳のニューロンの働きや、人工知能による複数のアルゴリズムの利用を紹介します。※本連載はジブラルタ生命保険株式会社勤務、冨島佑允氏の著書『「大数の法則」がわかれば、世の中のすべてがわかる!』(ウェッジ)の中から一部を抜粋し、世の中で大数の法則がどのように活用されているかなどをご紹介します。

電気信号から賛成と反対を総括、結論を出すニューロン

ちなみに、多数決は選挙や株主総会のときだけでなく、実は私たちの脳の中でも行われているらしい。

 

私たちの脳は、無数のニューロン(神経細胞)が電気信号をやり取りすることで色々な情報を処理している。ニューロンには樹状突起(じゅじょうとっき)と呼ばれる無数の枝みたいなものが生えていて、ほかのニューロンからの電気信号がそこから入ってくる。そして、軸索(じくさく)と呼ばれるコードのような組織を通じてほかのニューロンへ電気信号を送る。入力は樹状突起から、出力は軸索からというわけだ。そして、電気信号のやり取りは、シナプスと呼ばれる部分で行われる。

 

1つのニューロンには、何と数万個ものシナプスがあり、ほかのニューロンからの電気信号がどんどん入って来る。ニューロンの中には、電気信号の伝達を促そうとする興奮性ニューロン(いわば賛成意見)と、それを抑えようとする抑制性ニューロン(いわば反対意見)がある。

 

そして、1つのニューロンにはその両方からの電気信号がシナプスを通じて入ってくる。電気信号を受け取ったニューロンは、賛成意見と反対意見を総括して、ある程度以上に賛成優位な場合に電気信号を出すわけだ。そうやって多数のニューロンが協力して情報処理をすることで、脳全体として安定的に活動ができるのである。

コンピューターのアルゴリズム同士で多数決を操る!?

そのほかの例を出すと、人工知能の世界でも多数決が取り入れられている。機械に物事を学習させる方法は何種類かあって、それらの方法はまとめて「機械学習アルゴリズム」と呼ばれているが、それぞれのアルゴリズムには一長一短がある。アルゴリズムAは、あるケースではうまく働くけれど、別のケースではうまくいかない、といった感じである。

 

そこで最近注目されているのが、複数のアルゴリズムを同時に動かして、多数決で結果を出させるやり方だ。このやり方は、複数のアルゴリズムを1つのまとまり(アンサンブル)として使うので、アンサンブル学習と呼ばれる。

 

アンサンブル学習での“多数決”は、一般的なイメージの多数決の場合もあれば、そうでない場合もある。例えば、選挙と同じような要領でアルゴリズムに選択肢を与えて1つを選ばせ、得票数の多い選択肢を採用する場合もあれば、それぞれのアルゴリズムに数値を予想させ、その平均値や中央値(それぞれのアルゴリズムが出した数値を小さい順、または大きい順に並べたとき、ちょうど真ん中にくる値)を採用する場合もある。

 

要するに、何らかの形で“意見”を集約し、その結果を採用するわけだ。

 

実際に、それぞれのアルゴリズムを単独で使った場合よりも、アンサンブル学習の方が結果が良くなる例が多く確認されている。コンピューターのアルゴリズム同士で多数決を採るというのは不思議な感じがするが、人間と違って他人の意見に流されたりしないので、人間よりも多数決に向いているのかもしれない。多数決の有効性は、人間の意思決定に限った話ではないということだ。

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