今回は、大数の法則を利用した、銀行の「信用創造機能」の仕組みを見ていきます。※本連載はジブラルタ生命保険株式会社勤務、冨島佑允氏の著書『「大数の法則」がわかれば、世の中のすべてがわかる!』(ウェッジ)の中から一部を抜粋し、世の中で大数の法則がどのように活用されているかなどをご紹介します。

世の中に出回るお金を「何倍にも膨らませる」!?

今度は銀行についてである。銀行といえば、多くの人にとっては「自分のお金を預かってくれている、安全な金庫みたいなもの」くらいのイメージしかないかもしれない。しかし、銀行は単なる金庫の代わりではなく、経済において重要な役割を担っている。

 

それは、大数の法則を利用して、世の中に出回るお金を何倍にも膨らませるという役割である。千円札を手に握り込んで、広げてみたら1万円札になっていたというマジックをテレビで見たことがあるかもしれないが、まさにそういうことを、銀行はやってのける。

 

銀行の基本的なビジネスモデルは、預金者が預けたお金を企業に貸し出して稼ぐというものだ。預金金利よりも高い金利で貸し出すことで、金利差の部分(利鞘という)が銀行の儲けになるのである。しかし、よく考えたら不思議な話である。預金者は、自分が預けたお金をいつだって引き出せると考えているし、それは当然の権利だ。けれども、そのお金が企業に貸し出し中だったら、引き出すことができないのではないだろうか?

「引き出し」と「預け入れ」が必ずバランスする理由

実はここで、大数の法則が関わってくる。本書の序章で説明したように、預金者ひとりひとりを見ると引き出すタイミングも預け入れるタイミングもバラバラだが、預金者を集団として見た場合は、大数の法則によって引き出し額と預金額がおよそ同じくらいの金額となり、銀行は困らないという仕組みであった。

 

経済全体を考えればタンス預金なんてほんの一部なので、世の中に出回っているお金のほとんどは預金という形で銀行の口座に入っている。企業と企業のお金のやり取りは預金の付け替えで行われるし、多くの人は給料を銀行口座への振り込みで受け取っているだろう。仮に、あなたが生活費として自分の口座から現金を引き出したとしても、その現金は近所のスーパーやコンビニでの買い物に使われ、お金を受け取った店が売り上げを銀行に預けるという形で、また銀行預金に戻るのだ。

 

つまり、銀行から引き出されたお金は、またすぐに銀行に戻ってくる。即ち、銀行業界全体で見れば引き出しと預け入れは(財布やタンス、金庫等に残ったわずかな現金を除いて)必ずバランスするということになる。

 

もちろん、引き出されたお金が同じ銀行に戻ってくるとは限らないが、銀行同士も企業と企業の口座間決済などを通じてお金のやり取りを行っているので、結果としてはどこかの銀行に偏りが生じるということもなく、どの銀行も引き出しと預け入れがほぼバランスするのである。そのため銀行は、一部の現金をキープしておけば、それで預金者の引き出し・預け入れに対応できるのだ。

「大数の法則」がわかれば、世の中のすべてがわかる!

「大数の法則」がわかれば、世の中のすべてがわかる!

冨島 佑允

ウェッジ

大数の法則とは、「1つ1つは予想が難しい物事も、それらが沢山寄せ集まると、全体としての振る舞いは安定する」というものだ。 たとえば、コイン投げを数多く繰り返すことによって表の出る回数は1/2に近づく。数多くの試行…

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