大数の法則を活用した「生命保険の保険料」の仕組み

本連載は、ジブラルタ生命保険株式会社で金利リスク管理等を担当する、冨島佑允氏の著書『「大数の法則」がわかれば、世の中のすべてがわかる!』(ウェッジ)の中から一部を抜粋し、大数の法則が金融・経済、そして金融商品にどのように生かされているのかを具体的に紹介します。

保険商品の設計に深く関わる「相互扶助」の考え方

「大数(たいすう)の法則」とは、ひと言でいうと「ひとつひとつは予測が難しい物事も、それらがたくさん寄せ集まると、全体としての振る舞いは安定する」というものだ。

 

例えば、コイン投げを考えてみよう。コインを投げて、表が出た回数を数えていく。そして、コインを投げた回数のうち、表が出た回数の割合を調べることにする。

 

コインを10回投げて表が4回、裏が6回出たら、表が出た割合は4÷10つまり0.4である。コイン投げを繰り返していくと、最初のうちは割合が0.4になったり0.6になったりと結構な幅で揺れ動くが、コイン投げの回数が1千回、1万回と増えていくと、割合がだんだん0.5に近づいていく。

 

この現象は、大数の法則が働くことで起きるものだ。1回1回のコイン投げの結果を予想しようとしても、当然ながら五分五分でしか当たらないだろう。けれど、コイン投げを1万回行ったときに表が出る割合(つまり全体としての振る舞い)は、ほぼ確実に0.5だと予想できるのだ。

 

大数の法則が世の中の様々な場面で活躍している姿を見ていくことにしよう。

 

まずは、生命保険からである。生命保険の基本的な発想は、相互扶助という言葉で表される。相互扶助とは、「人生何が起きるか分からないから、誰かが困ったときは皆でお金を出し合って助け合いましょう」という助け合いの精神のことだ。

 

相互扶助の考え方は、あらゆる保険商品の設計に深く関わっている。保険料は、貯蓄保険料、危険保険料、付加保険料という3つのパーツからできているのをご存じだろうか? 私たちが普段支払っている「保険料」は、実はこれら3つを足し合わせた総額なのである。仮に、あなたが保険料を毎月1万円払っているとすると、保険会社はそれを、例えば貯蓄保険料9千円、危険保険料750円、付加保険料250円※2などというふうに分けて管理している。

※2 金額は例示のためのもので、現実のいかなる保険商品とも関係ありません。

危険保険料は「他人のためのカンパ金」!?

このうち、付加保険料とは、保険営業マン(ライフコンサルタント)の人件費や契約を管理するためのシステム費用などの、いわば事務コストを賄うために使われる。

 

また、貯蓄保険料とは、自分が死亡したときのために貯めておくお金と考えてもらえばいい。将来その人が死亡したときに支払われる保険金の一部を賄うために、保険会社が代わりに貯めておくのである。この部分は、いわば“自助努力”に相当している。

 

そして危険保険料とは、いわば「他人のためのカンパ金」である。1つの保険会社は多くの人に死亡保障を売っていて、毎年ある割合の人たちが死亡し、保険金が支払われていく。そうやって毎年支払われる保険金の財源は、死亡した人が支払った貯蓄保険料だけでは賄えないので、ほかの契約者が支払った危険保険料を充当する。今年死亡する人よりも死亡しない人(契約が継続する人)の方が遥かに多いので、少しずつのカンパ金でも大きな助けになるのだ。

 

つまり危険保険料は、「今年死亡した誰かのためのカンパ金」なのである。もちろん、自分が死亡したときは、その年にほかの契約者が支払った危険保険料が保険金に充当されることになる。これこそまさに、相互扶助というやつである。保険の世界では、保険金の支払いに繋がるリスクのことを“危険”と表現する(保険会社にとっては、急に大金の支払いが発生する“危険”があるということ)ため、危険保険料という名前が付いている。

保険金は「自助努力と相互扶助」を足した金額

つまり、保険金は自助努力(貯蓄保険料)と相互扶助(危険保険料)を足し合わせて支払われるというわけだ。このように、保険は相互扶助の考え方に基づいて設計されているのである。自分の身に何かあったときに、自分が支払った保険料の総額よりも大きな保険金が受け取れるのは、危険保険料というカンパ金のおかげである。

 

そして、貯蓄保険料と危険保険料をいくら徴収すればいいかは、年齢別の死亡率(ある年齢の人が次の年齢に達する前に死亡する確率)に基づいて理論的に計算することができる。そして、大数の法則が働くことで収入・支出が理論通りに均衡するので、確実に保険金が受け取れるのだ。

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連載資産運用のプロが教える「大数の法則」と関連金融商品の仕組み

ジブラルタ生命保険 

ジブラルタ生命保険勤務(金利リスク管理等を担当)。 1982年福岡県生まれ。京都大学、東京大学大学院(いずれも専門は素粒子物理学)を卒業後、みずほ銀行にクオンツ(金融工学を駆使する専門職)として採用され、信用デリバティブや日本国債・日本株の運用に加え、ニューヨークへ赴任しヘッジファンドのマネージャーを経験。みずほ銀行退職後、2016年2月から現職。欧米文化に親しんだ国際的な金融マンであると同時に、科学や哲学における最先端の動向に精通している。

著者紹介

「大数の法則」がわかれば、世の中のすべてがわかる!

「大数の法則」がわかれば、世の中のすべてがわかる!

冨島 佑允

ウェッジ

大数の法則とは、「1つ1つは予想が難しい物事も、それらが沢山寄せ集まると、全体としての振る舞いは安定する」というものだ。 たとえば、コイン投げを数多く繰り返すことによって表の出る回数は1/2に近づく。数多くの試行を…

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