目的は取引先支援・・・西武信用金庫のFintechへの取り組み

中小企業の資金繰りを円滑にして、新たなサービス・製品開発の機会を生み出す――その一つの方法として、電子債権を活用した「POファイナンス(Perchase Order Finance)」の実証実験が中小企業庁の委託事業として進められている。カギとなる技術を擁しているのは、FintechベンチャーのTranzax株式会社。本連載では、実証実験のコンソーシアムに参画している金融機関の1つ、西武信用金庫の落合寛司理事長に伺ったお話をご紹介する。第4回目のテーマは、西武信用金庫のFintechへの取り組みについてである。

カード決済サービス「Coiney」と提携した理由

――POファイナンスを取り入れようと動かれていますが、Fintechへの取り組みはいかがですか?

 

西武信用金庫理事長 落合寛司 氏
西武信用金庫理事長 落合寛司 氏

落合 東大発の大学ベンチャーなど、Fintech系ベンチャーに投資しているほか、提携も積極的に進めています。その1つが、スマートフォンやタブレット端末と連携させたカード決済サービスを提供しているCoineyとの提携です。ご存じのように、近年は町の商店街の活気がどんどんなくなっています。シャッター街も少なくありません。西武信用金庫の取引先には、そういった商店街の関係者も少なくないのですが、だいたいカード決済ができない。

 

「皆さんはインバウンド需要を取り込みたいというけど、なんでカード決済を取り入れないの?」と聞くと、商店街の関係者は「そもそも、外国人は私たちのところに来ない」などと言うんです。いや、そうじゃないだろうと。カードが使えないんだから、来るはずがないんです。海外の人は手数料がかかるから、両替なんてしない。ペットボトル1本でもカードで買う、という文化の国は少なくありません。ですから、商店街の関係者に投資負担ゼロのカード決済サービスを利用してもらおうとCoineyと提携させてもらったわけです。

 

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企業の生産性を向上させる「情報のデータ化」

――Fintechへの取り組みも、取引先の経営支援を目的としたものということですね。

 

落合 あとは、全国の税理士との連携を進めようと動いています。実は、私はよく税理士会の講演に呼ばれるんです。そのときに話しているのが、「Fintechであなたたちの仕事はなくなる」ということ。FintechやAIが浸透してきたら、伝票を打ち込んで損益計算書や貸借対照表をつくるという仕事はなくなるんです。カードで支払った飲食代は自動的に交際費として計上され、FB(ファームバンキング=銀行振り込み等の支払い処理)で取引先に支払った代金は自動的に仕入れ代金として計上され、給振なら人件費といった具合。もう、節税も脱税も粉飾もできない(笑)。そのときに、税理士の先生たちはどうするんですか?とお話をさせてもらっているわけです。

 

私が提示している一つの解決策は、資本政策までタッチする財務会計のコンサルタントになるという方法。これまでの中小企業は、実はまったくと言っていいほど“経営”をしてこなかったんです。顕著なのが製造業です。親事業者が毎月決まった数量を発注し、単価を決めて、与えられた量を生産するためにプレスを何台買いなさい、従業員も増やしなさいと指示してきた。原価計算から売り上げ管理、設備投資、採用計画まで親事業者がやっていたんです。中小企業がやっていたのは納期管理と品質管理ぐらいのもの。

 

しかし、今後はそのやり方が通用しなくなる可能性が高い。だから、税理士の先生方は財務会計に特化して、中小企業の資本政策や会計管理を一手に担えるようになったほうがいいと。その結果、中小企業はより、本業に専念して売り上げを伸ばせるようになるわけです。これは直接的なFintechへの取り組みとは異なりますが、おのずと資本政策や会計管理を行う際に、Fintechによって生まれたさまざまなサービスを活用することになるでしょう。

 

Tranzax株式会社代表取締役社長 小倉隆志 氏
Tranzax株式会社代表取締役社長 小倉隆志 氏

小倉 まず、間違いなくすべての情報はデータ化され、キャッシュレス化が進み、見積書や発注書も電子化されるでしょうね。

 

落合 おっしゃるとおり。あらゆるもののデータ化は、企業の生産性を向上させるうえで不可欠です。中小企業の経営者とお話すると、「銀行にお金を借りに行くのが嫌だ」という人は非常に多い。何が嫌かというと、新規融資の申込書を作成して、それを持参して銀行に行って1~2時間ほど説明をして、やっと借りる借りないの交渉が始まるわけです。その交渉相手は、自分の息子ほどの年齢だったりする。頭を下げて丁寧に説明したところで融資がおりない可能性もある。そういう時間が無駄に思えてしまうわけです。

 

そう思うのも当然ですよね? だって、お金を借りる交渉そのものは、まったくその企業の生産性向上に結び付かないんですから。企業のあらゆる情報が電子化され、アクセスできるようになれば、そういった手間も解消されていくはずです。税理士が財務会計の専門家として銀行との交渉事を担ってくれれば、経営者は経営に専念できるようになる。私は、POファイナンスにも、そのような中小企業の生産性を向上させる効果が大いにあると感じています。

 

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取材・文/田茂井 治 撮影/永井 浩 
※本インタビューは、2017年8月16日に収録したものです。

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連載FinTechへの先進的な企業の取り組み「西武信用金庫」~POファイナンスの実証実験

西武信用金庫 理事長

中小企業診断士。1950年、神奈川県生まれ。1973年西武信用金庫入庫。2002年常勤理事、05年専務理事を経て、10年6月より現職。

著者紹介

Tranzax株式会社 代表取締役社長

一橋大学卒業後、野村證券に入社。金融法人部リレーションシップマネージャーとして、ストラクチャード・ファイナンス並びに大型案件の立案から実行まで手掛ける。主計部では経営計画を担当。経営改革プロジェクトを推進し、事業再構築にも取り組んだ。2004年4月にエフエム東京執行役員経営企画局長に。同年10月には放送と通信の融合に向けて、モバイルIT上場企業のジグノシステムを買収。2007年4月にはCSK-IS執行役員就任。福岡市のデジタル放送実証実験、電子記録債権に関する研究開発に取り組んだ。2009年に日本電子記録債権研究所(現Tranzax)を設立。

著者紹介