融資残高の増加率トップ・西武信用金庫の「変革」への取り組み

中小企業の資金繰りを円滑にして、新たなサービス・製品開発の機会を生み出す――その一つの方法として、電子債権を活用した「POファイナンス(Perchase Order Finance)」の実証実験が中小企業庁の委託事業として進められている。カギとなる技術を擁しているのは、FintechベンチャーのTranzax株式会社。本連載では、実証実験のコンソーシアムに参画している金融機関の1つ、西武信用金庫の落合寛司理事長に伺ったお話をご紹介する。今回のテーマは、新しい分野への取り組みに定評のある西武信用金庫が、POファイナンスの実証実験に参加した根本的な理由である。

信用金庫は相互扶助、利用者保護を目的とした協同組織

――POファイナンスの実証実験に傘下されている金融機関は、三井住友信託銀行、足利銀行、北陸銀行、北洋銀行、多摩信用金庫、西武信用金庫の6つ。なぜ、西武信用金庫は参加を決定したのでしょうか?

 

西武信用金庫理事長 落合寛司 氏
西武信用金庫理事長 落合寛司 氏

落合 同じ金融機関でも銀行と信用金庫はまったく異なります。銀行は株式会社で株主の利益を追及するものですが、信用金庫は地域の利用者が会員となって地域の活性化を図る相互扶助を目的とした協同組織。その取引先の多くは中小企業や個人です。POファイナンスは、西武信用金庫の主な取引先である中小企業の生産性を上げるうえで非常に有効だと思って参加を決定したわけです。

 

小倉 どうやって私たち(Tranzax)のことを知ったのですか?

 

落合 今回の実証実験に参加している板金加工などに強みのある武州工業さんが、西武信用金庫のお客さんで、武州工業さんから「西武さんも参加しませんか?」と話を頂いたんです。うちは新しいことに積極的に取り組んでいるので、武州さんは「西武信用金庫なら興味を持つだろう」と思ったようです(笑)。

 

――新しい取り組みとはどういうものなのでしょうか?

 

落合 いくつかありますが、最も特徴的なのは信用金庫として初めてコンサルティング機能を持ったことでしょうね。私が理事長に就任したのは2010年のことですが、就任当初から私は「経営環境は大きな変革期にある」ということを言い続けてきました。大きく2つの変化があったからです。

 

1つには、世界の経済の主役が先進国から新興国に変わったこと。安い労働力を求めて企業はこぞって新興国に生産拠点を移してしまい、先進国では産業の空洞化が進みました。その結果、高くてもいいものを作っていれば売れた時代から、安いものを作らないと売れない時代に変わったわけです。

 

もう1つは日本国内の問題。経済成長が続いた時代は終わり、成熟期を迎え、さらに少子高齢化の進展により衰退期に入ろうという変化が顕著に見られます。このような変革期では、既存のビジネスモデルは通用しません。安泰期は強い者が生き残りますが、変革期は変化に対応した者しか生き残れない。だから、私は原点に立ち返ってビジネスを見直したのです。先ほども話したように、信用金庫は相互扶助、利用者保護を目的とした協同組織。利用者を守るにはどうしたらいいか?と考えたすえに、たどり着いたのがコンサルティングだったのです。

 

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「コンサルティング」で取引先の経営は変わる?

――信用金庫の方に経営のコンサルティングなどできるものなのでしょうか?

 

落合 失敗しました(笑)。私も中小企業診断士の資格を取って、一生懸命やってみたんですけど、うまくいかない。それで外部の専門家との提携を進めたのです。今では経営や会計の専門家を抱える2000の機関と提携して、3万人のコンサルタントを擁する「お客さま支援センター」がフル稼働しています。

 

Tranzax代表取締役社長 小倉隆志 氏
Tranzax株式会社代表取締役社長 小倉隆志 氏

小倉 やっぱり、コンサルティングを行うと取引先の経営は変わるものですか?

 

落合 コンサルタントを利用した取引先がどれだけ業績を伸ばしたかは細かく統計を取っていないのですが、軒並み業績が上向いているのは間違いありません。資金ニーズは元気なお客さんが増えるから、高まるもの。だから、西武信用金庫の融資額が右肩上がりを続けています。昨年度は1970億円も融資残が増えました。

 

これが、どれだけの金額かというと、今、東京に24の信用金庫がありますけど、80~90年もの社歴があるのに融資残が1000億円に達していない信用金庫が4つあるんです。全国には264の信用金庫がありますが、1000億円に達していない信用金庫が約43%を占める。それなのに、西武信用金庫は私が理事長に就任してから7年間で5550億円も融資残が増えているんです。おまけに預金に対して貸出の比率を示す預貸率は82%(前年度実績)。全国の銀行の預貸率は66%で、西武信用金庫が日本一高いんです。

 

小倉 それだけ貸し出しを行っていると、貸し倒れのリスクも高そうですけど……。

 

落合 そう思うかもしれませんが、延滞率はわずかに0.04%です。業界平均は0.8%ですから、これも群を抜いて低い数値。リスク管理債権という不良債権比率は1.32%でメガバンクと同じ水準なのですが、今期末には1%を切る見込みです。

 

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取材・文/田茂井 治 撮影/永井 浩
※本インタビューは、2017年8月16日に収録したものです。

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西武信用金庫 理事長

中小企業診断士。1950年、神奈川県生まれ。1973年西武信用金庫入庫。2002年常勤理事、05年専務理事を経て、10年6月より現職。

著者紹介

Tranzax株式会社 代表取締役社長

一橋大学卒業後、野村證券に入社。金融法人部リレーションシップマネージャーとして、ストラクチャード・ファイナンス並びに大型案件の立案から実行まで手掛ける。主計部では経営計画を担当。経営改革プロジェクトを推進し、事業再構築にも取り組んだ。2004年4月にエフエム東京執行役員経営企画局長に。同年10月には放送と通信の融合に向けて、モバイルIT上場企業のジグノシステムを買収。2007年4月にはCSK-IS執行役員就任。福岡市のデジタル放送実証実験、電子記録債権に関する研究開発に取り組んだ。2009年に日本電子記録債権研究所(現Tranzax)を設立。

著者紹介