企業の営業成績・財務状況を明確化する「月次決算」の重要性

前回は、企業の経営と会計における「税理士」の真の役割について解説しました。今回は、企業の営業成績・財務状況を明確化する「月次決算」の重要性について見ていきます。

最新の経営状態をタイムリーかつ正確につかむ

前回の続きです。

 

会計を企業経営に随伴させるための基本は「月次決算」である。今でこそ当たり前に行われているが、私は50年前の開業当時から月次決算に徹底してこだわってきた。

 

いうまでもなく、月次決算とは事業年度末に行う年次決算とは別に、毎月の月末を決算期末とみなして決算書を作成する作業を指す。毎月の営業成績や財務状態を明らかにして、経営管理に必要な情報を経営者に知らせるのだ。

 

もっとも、法規に照らした決算は事業年度末に一度行えばいい。しかし経営者が会社の経営状態を知る機会が年に一度しかないとすれば、パイロットが3日前の気象情報を頼りに飛行しているような状態で危険極まりない。

 

経営環境が右肩上がりの時代であれば、年に一度のどんぶり勘定でも強引に企業を成長させることができたかもしれない。しかし成熟市場を迎えた現在は、1カ月さえおろそかにできない。経営者は最新の経営状態をタイムリーかつ正確につかみ、必要な対策をスピーディーに講じなければならないのだ。

 

そのためには月次決算は月末で締め、翌月のできる限り早い時期に行う必要がある。私は開業間もない時期から、翌月10日までに月次決算を完了させ、15日までに私自身がすべての顧問先を訪問し月次決算報告を行っていた。顧問先企業が増えた現在は私がすべての企業を回れるわけではないが、私の右腕左腕となるベテラン職員が一連の作業を実施する基本サイクルは当時から変えていない。

 

私は自分の事務所を持った際に所長室を設けたが、以来、半世紀近く経ってもそこで執務することは一度もなかった。なぜなら、税理士が所長室に籠もっていたら、自分以外の職員が担当する関与先との近況を察知することができなくなる。私が受ける報告には担当者の意思が介入するからだ。そのため、私の事務所ではビル大改装をした時に所長室を取り払ってしまった。

月次決算書にホコリを積もらせてはいけない

総室で仕事をすることで、職員全員の動きや受け答えから関与先との状況を自ら把握し、あらゆることに即断即決し対応する。顧問先に出向く際は、月次決算と併せて「予算実績管理(以下、予実管理)」の結果も報告する。予実管理とは予算と実績を比較し、目標達成の状況や改善策を検討する管理のこと。予実に乖離が出れば、その理由と対策を確認するために経営者と大急ぎで討議する。

 

経営者にとっては、月次決算のたびに"ウルサイ"税理士がやってくるわけだから気が抜けない。しかしそんな緊張感が業績を伸ばすカンフル剤、あるいは業績の落ち込みを最小限に抑える歯止め薬としての役割を果たすのである。

 

ところが、経営状態を少しでも早く知らせたいという私の思いとは裏腹に、数字を求める経営者の意識には大きな差があるのが実情だ。

 

私は時々、顧問先企業を抜き打ちで訪問することがある。経営者は外出していることも多く、経理担当の奥さんが対応してくれるケースもしばしばだ。

 

「石原先生、ご無沙汰しています。突然、どないしはったんですか?」

「近くまで来たんでね、久々に寄せてもろたんです。どうです、最近の業況は?」

 

こうやって世間話をしながら、私は応接室や事務所をさりげなくチェックする。

 

本棚によく置いてあるのは経営雑誌の類である。さらにその上に目を移すと、来客時にやり取りした資料がそのまま山積していたりする。

 

以前、その資料に紛れて「石原会計事務所」と明記されている封筒が置かれていた。奥さんが席を立った隙に手に取ると、私の事務所が提出している月次決算書類がそのままの状態で入っている。しかも、封筒にはうっすらとホコリが積もっていた。

 

(ここの社長は数字にほとんど関心がないな・・・)

 

企業の繁栄を願って月次決算書を作成しているだけに、大変残念な気持ちになったものである。

 

そうかと思えば数字にハングリーな経営者もいる。スケジュールの都合で、顧問先への提出が予定より遅れてしまうケースがどうしても発生するのだが、その際に催促の連絡を入れる経営者は事業に熱心で、本気で身命を賭している。

 

たとえば、先月の生産が予定ラインを下回り、500万円のロスが生じたとしよう。経営者は持てる能力と技術を振り絞って原因を究明し、翌月は目標ラインを達成するためにスタッフに細かく指示を出すとともに、自らも戒めて現場で走り回ったはずだ。

 

決算書には、その結果が示されているのである。ところが、待ちに待った決算書が会計事務所から上がってこないとなれば、どう思うだろう。

 

「俺がウエイトをかけて取り組んだ結果を早く知りたい! なぜもっと早く上げてくれないんだ!」

 

これこそ、事業に真剣に格闘している経営者の声である。私たちは遅れたことに対して詫びを入れるとともに、そんな経営者の情熱に応えようと必死になる。心ある人間同士、打てば響く太鼓の仲だ。一方が力強く打ち込めば一方も大きく響く。

 

そうやってハングリーに数字を求める経営者の会社は、業績が好調であることが多い。また、たとえ数字が落ち込んでも、その兆候を早くつかんで対処できるから回復までの道のりも早い。

 

世の中小企業経営者は、月次決算書にホコリを積もらせないでほしい。経営の羅針盤として有効活用してこそ、月次決算の意味がある。その書類を早く上げてこない会計事務所には、殴り込むくらいの気概を持たなければならない。自戒を込めたお願いでもある。

本連載は、2017年3月16日刊行の書籍『どんな不況もチャンスに変える 黒字経営9の鉄則』から抜粋したものです。稀にその後の税制改正等、最新の内容には一部対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

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連載「万年黒字経営」を実現するための鉄則

京都ビジネスコンサルタントセンター 代表取締役
税理士/経営コンサルタント/社会保険労務士/行政書士 

昭和10年京都生まれ。
昭和31年学卒、会計事務所勤務を経て、民間食品製造会社入社。
その後公的機関で経営指導員として企業診断、経営診断、経営相談・指導に従事。指導対象企業は1万5000社を超える。
昭和47年4月1日石原会計事務所を開業。同月14日京都ビジネスコンサルタントセンターを設立し、代表取締役に就任。会計事務所経営と併せて、43年間にわたり中小企業の経営助言・支援・指導に積極的に取り組む。
昭和56年、異業種組合たる仁智会事業協同組合の府認可・設立とともに代表理事に就任。京都府より委嘱された特別経営指導員および中小企業復興公社経営診断員として商工行政にも深くかかわり、京都商工会議所にて小規模事業者経営改善資金審査会の審査委員および同委員長を13年務め、延べ1万社以上の中小企業融資審査を行っている。
また京都府農業会議にも顧問として参画し、遊休荒廃農地の解消、集落営農・地域農場づくりにも力を注いでいる。

著者紹介

どんな不況もチャンスに変える黒字経営9の鉄則

どんな不況もチャンスに変える黒字経営9の鉄則

石原 豊

幻冬舎メディアコンサルティング

日本の企業の約7割は赤字という現実があります。現在の日本企業の回復基調はあくまでも一時的なものであり、ほとんどの中小企業は根本的な解決には至っていません。また、人手不足や消費の冷え込みといった課題があるように、…

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