前回に引き続き、「戦略的貸借対照表」を活用して財務戦略を組み立てる方法を見ていきましょう。今回は、自己資本と他人資本のバランスの取り方も併せて説明します。

「他人資本」を活用した財務計画を立てる

前回の続きである。

 

●流動他人資本

 

戦略的貸借対照表における「流動負債」「固定負債」を、私は経営コンサルタントとして「流動他人資本」「固定他人資本」と呼ぶ。その理由は後述する。

 

まずP/Lの規模の目標を設定する際、「自己資本の範囲内で実現を目指す経営」と、「自己資本の範囲を超えた規模の実現を目指す経営」の二つがある。

 

前者は銀行借入などの他人資本に極力頼らず、小さいながらも身の丈に応じた経営に徹する考え方。後者は戦略的に財務を組み立て、他人資本も積極的に活用しながら攻めの経営を行う考え方。

 

前述したように、企業経営は本質的に拡大思考を取るべきである。従って私自身は3年先、5年先、10年先の未来に向かって企業を拡大成長させるべく、他人資本を活用した財務計画を立てて企業経営をすべきであるという考えを持っている。その財務戦略をいかに構築するかというのが経営者の最大の腕の見せ所なのだ。

 

しかし闇雲に他人資本に頼ればいいかというと、当然ながらそんなことはない。流動他人資本で注意すべきは、実力に応じて銀行借入を活用する財務戦略と「支払手形」の扱いである。商品や材料を買掛金で購入してもいいが、その買掛金の支払いに支払手形を振り出すのは問題だ。支払手形については後ほど詳述する。

 

そのほか、預り金や未払金、寸借の少額回転借入金(運転資金のための短期借入金)以外の他人資本は不要である。流動他人資本は返済期日が早く来るため、多く抱えると返済負担が増す。返済余力を常にモニタリングしながら、適正量の流動他人資本に抑える経営判断が求められるのだ。

 

企業の短期的な支払い能力を分析する経営指標として、「流動比率」(流動資産÷流動負債×100)を活用するといい。「2対1の原則」と呼び「200%以上」が望ましいとされている。

 

しかし、過小資本の中小企業は200%を大きく割り込んでいるのが実態で、現実的には「150%以上」は優良、「130%」は普通、「100%を割り込む」と危険域、これらを目安にするといい。

固定資産は、長期借入金か自己資本での取得がセオリー

●固定他人資本

 

固定他人資本は長期借入金のみでそれ以外は不要だ。長期借入金は返済期間10年以上を前提に考えること。固定他人資本をどの程度抱えるかは各企業の財務戦略によって異なるが、前述の固定長期適合率は目安として参考になる。

 

固定資産は長期借入金か自己資本で取得するのが経営のセオリーである。固定資産の取得に短期借入金まで投入している状況は、財務戦略として判断ミスをしている可能性が大きいため、他人資本全体の活用を再点検することが肝要である。

 

●自己資本

 

自己資本比率は「最低30%以上」を確保したいところだ。もちろん割合が高いほど財務の安定性は増すが、大きな商売を目標にするのは難しくなる。目指す事業規模に向かって、自己資本と他人資本のバランスをいかに取るのかを経営者はよく考えねばならない。

 

経営効率を判断する指標として「総資本回転率」(売上高÷総資本[平均残高])を抑えておきたい。これは1年間に総資本の何倍の売上高になったのかを示す経営指標で、率が高くなるほど少ない資本で多くの売上を上げたことになる。最低1回転、2回転以上を目安にすればいいだろう。

本連載は、2017年3月16日刊行の書籍『どんな不況もチャンスに変える 黒字経営9の鉄則』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には一部対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

どんな不況もチャンスに変える黒字経営9の鉄則

どんな不況もチャンスに変える黒字経営9の鉄則

石原 豊

幻冬舎メディアコンサルティング

日本の企業の約7割は赤字という現実があります。 現在の日本企業の回復基調はあくまでも一時的なものであり、ほとんどの中小企業は根本的な解決には至っていません。また、人手不足や消費の冷え込みといった課題があるように…

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