前回は、「戦略的貸借対照表」を武器に財務戦略を組み立てる方法を説明しました。今回は、戦略的経営者に「他人資本」を活用する経営センスが重要な理由を見ていきます。

借入は負債ではなく「武器」

借入金などを「負債」と呼ぶか、「他人資本」と呼ぶか―これは財務会計の目的によって異なる。「負債」とは資産から負債を差し引いて純資産を求める静態論(資産負債アプローチ)、「他人資本」は広義の資本から他人資本と自己資本の二つに分類する動態論(収益費用アプローチ)によっている。

 

なかでも企業経営の視点で注目したいのは、他人資本は同じ「資本」を出発点としている点である。他人資本も自己資本も同じ「資本」。だから経営者は、借入金を資本とは〝異質〞の「負債」ではなく、〝同質〞の「資本」とみなして経営してほしい。戦略的貸借対照表で流動負債、固定負債を「流動他人資本」「固定他人資本」としている理由はそのためである。

 

ところが、実際には借入金を負債というマイナスイメージで捉えている経営者があまりにも多い。よく耳にするのは、「金利負担が大きいので借入金に頼った経営はしたくない」という声だ。そうした意見を聞くたび、私は「そんな表面的な理由で借入金を避けていては中小企業の経営なんて務まらない」と忠告したくなる。

 

銀行借入を活用して手元に潤沢な資金を置いておくという、財務的に余裕のある経営。借金はないけれど常に資金繰りに追われ続けるという、財務的余裕のない汲々とした経営。

 

客観的に見て、どちらの経営を志向する経営者がより優秀と感じるだろうか。実力を超えて借入金に頼るのは論外だが、銀行借入を戦略的に活用している経営者のほうが経営の才覚があると見るのが当然だろう。過小資本という弱みを借入で補い、さらにその借入を事業投資に活用するのが財務戦略であり、経営者の手腕を発揮できるところなのである

 

金利を払うのが嫌だといっても、たかだか数%にすぎない。仮に2%とすれば、1000万円の借入金に対して年間利子20万円、月額1万7000円にすぎない。金利負担を気にするならゴルフに行く回数を一度減らせばいい。

 

中小企業経営は本来、一部例外を除き過小資本で財務に余裕はないはずだ。金利という心理的足かせで借入という武器を使えずにいる者は「戦略的経営者」とは呼べない。厳しい経営環境で戦う中小企業経営者は、他人資本であっても自己資本の一部と見なして経営する思考と経営センスが求められるのだ。

借入金は戦に勝つための「援軍」…「資本」と同じ

たとえば、自分が300人の守備兵を率いて砦を守る戦国武将だったらどうだろう。自らは知将にして守備兵も一騎当千の兵揃いだ。守備兵1人につき敵兵10人を倒すだけの戦闘能力を有している。

 

そこで正門に守備兵50人、4つある搦め手にそれぞれ10人の守備兵を配置し、万全を期したつもりでも、攻めてきた敵兵は総勢3000人、そのうち200〜300人の敵兵が10人で守る搦め手に押し寄せてくればひとたまりもない。突破口を開かれた砦は落ちるよりほかないだろう。

 

一方、自国の兵に加え、同盟国の援軍1000人を足した1300人で砦を守った場合、劣勢には違いないが持久戦に持ち込める可能性が高まる。その間に城から本隊が到着すれば、砦を囲む敵兵を飲み込むように叩き潰してくれるに違いない。

 

また、生きるか死ぬかの死闘を繰り広げている最中に自軍も援軍もない。自軍にだけ飯を食わせて援軍には食糧を与えないといった差別をするわけにはいかないだろう。

 

企業経営における銀行借入も同様である。借入金は企業にとっての援軍であり「資本」に変わりはないのである。その援軍(=借金)を嫌悪してどうする。食糧(=金利)が余計にかかるというだけで援軍の派遣要請を断ってどうする。

 

援軍を味方に引き入れて戦に勝つ。これこそが本当の経営であり、中小企業経営者が駆使すべき財務戦略なのである。

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    本連載は、2017年3月16日刊行の書籍『どんな不況もチャンスに変える 黒字経営9の鉄則』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には一部対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

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    石原 豊

    幻冬舎メディアコンサルティング

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