かけだし信金マン・和久井健太の活躍を通して「お金の増やし方」を学ぶ本連載。今回は、その第4回です。※本連載は、銀行の元支店長で現在は実業家として活躍する菅井敏之氏の著書、『読むだけでお金の増やし方が身につく 京都かけだし信金マンの事件簿』(アスコム)の中から一部を抜粋し、お金の増やし方について、かけだし信金マン・和久井健太の活躍を通して見ていきましょう。

<登場人物紹介>

・和久井健太(わくい・けんた)
京都にある洛中信用金庫に就職。入社三年目を迎え、北大路支店の営業部に配属されるも、引っ込み思案がわざわいして、苦戦。最近自分がこの仕事に向いているのか悩んでいる。

 

「なんやお前、ウーロン茶飲んでるんの」

 

「今日は車で来たんだ」

 

「車? ああ、チャリかいな。チャリで飲まへんところがお前らしいな。真面目すぎるちゅうか」

 

「それにしても大勢集まってるな」

 

和久井は話をそらした。

 

「ああ、内田先生、来年で教授を退任されるちゅう話やからな、それで先輩もぎょうさん来てる。いま湊(みなと)がどうぞよろしゅうにて頭下げてる白いスーツの人おるやろ、あれは任海堂(にんかいどう)や」

 

和久井はどうりでと思った。

 

任海堂といえば京都を代表する大企業だ。昔は花札などを作っていた小さなゲーム会社だったのが、一昔前に出した家庭用ゲーム機が爆発的に売れまくって、「プレイ・ニンカイドウ」という英語が成り立つまでになった。いまや世界に冠たるIC企業だ。西陣銀行に勤めている湊洋平が先輩先輩とすり寄っていくのも無理はない。

 

京都には任海堂をはじめとして、このような企業がいくつかある。これらの企業は、京都を発祥の地とし、日本を代表する大企業になった後も、京都に活動拠点の中心を置いている。村田製作所も、京セラも、ワコールも、堀場製作所も、島津製作所も、本社はみな京都にある。和久井はこれを京都人の意地だと解釈していた。

 

「お前も名刺渡さんでええのんか」

 

「まあ、こんな格好だから」

 

和久井は生成のシャツに、下はジーパンだった。

 

「ええやんか。渡すだけ渡しとけ。どこで商売につながるかわからへんぞ」

 

「いや、うちが任海堂さんと仕事で絡むのは無理なんだ」

 

「なんでや」

 

「うちは信用金庫だから」

 

「それがどないしたんや、同じ金貸しやろ」

 

「いや、信用金庫法ってやつで、大企業との取引は禁止されてる」

 

「へえ、そりゃしょうもない話やな」

 

戸山田は、いかリングをテーブルからつまみ上げながら言った。

 

「そんなんやったら、一生、商店街のおっさんのお世話で終わってしまうがな」

 

和久井にとって一番聞きたくない台詞だった。

 

二十代の半ばですでに自分の人生が小さく決定されてしまったような、そんな薄暗く埃っぽい気分が膨らみだしている。そして転職、と考えてしまうのである。さらに戸山田には、そんなこと言うのなら、お前の店と取引させてくれればいいじゃないか、と言いたかった。

「悪いけど、おやじの目の黒いうちは無理や」

戸山田の実家は、京都の有名な和菓子屋である。つまり彼は老舗のボンボンというわけだ。残酷なくらい暑い京都のキャンパスで、皆が暑苦しい就活ルックに身を包んで教室に座っていたとき、「たいへんやなあ」とTシャツ姿でのんきにガリガリ君を食っていたのが戸山田である。

 

しかし、信金に入った和久井が取引を相談したとき、この若頭はこう言った。

 

「悪いけど、おやじの目の黒いうちは無理や。ごっつうブランド志向が強いよって、取引するなら都銀やないと体裁悪い言うねん」

 

実は京都にはこのような老舗が多いことは、就職してから知った。老舗の旅館や料亭などは非常に気位が高く、信金は相手にしてもらえないことが多い。

読むだけで お金の増やし方が身につく 京都かけだし信金マンの事件簿

読むだけで お金の増やし方が身につく 京都かけだし信金マンの事件簿

菅井 敏之

アスコム

長年の取引先を次々と失う洛中信用金庫。メガバンクの巧妙な罠にはまり、貸し剥がしにあう老舗商店――。人々の夢と希望と「お金」を奪うメガバンクの策謀がうずまく京都の町を、かけだし信金マン・和久井健太が駆け巡る! 読…

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