かけだし信金マン・和久井健太の活躍を通して「お金の増やし方」を学ぶ本連載。今回は、その第22回です。※本連載は、銀行の元支店長で現在は実業家として活躍する菅井敏之氏の著書、『読むだけでお金の増やし方が身につく 京都かけだし信金マンの事件簿』(アスコム)の中から一部を抜粋し、お金の増やし方について、かけだし信金マン・和久井健太の活躍を通して見ていきましょう。

<登場人物紹介>

・和久井健太(わくい・けんた)
京都にある洛中信用金庫に就職。入社三年目を迎え、北大路支店の営業部に配属されるも、引っ込み思案がわざわいして、苦戦。最近自分がこの仕事に向いているのか悩んでいる。

・桜四十郎(さくら・しじゅうろう)
偶然入った喫茶店で出会った職業、住所、年齢ともに不定の謎の中年男性。なぜか金融関連の事情に詳しく、和久井にいろいろとアドバイスをするように。

 

和久井はここで、前からの疑問を打ち明けた。

 

「桜さんって、いったい何者なんですか」

 

桜さんはニヤッと笑ってビールを飲んだ。

 

「あんなところでホームレスやってるなんて」

 

「まあ、ちょっと金が底をついたからだよ」

 

「どうして働かないんです」

 

「まあ、そのうちな」

 

「前の仕事はなんですか」

 

「土方とか、植木屋の見習いとか」

 

「その前は?」

 

「ま、野暮はよそうや」

 

「そんな・・・」

 

「いいじゃないか、こんなうまい肉食ってるんだから。つまらん話をさせんな」

 

「僕はつまんなくないですよ」

 

「俺はつまんないね」

「仕事のために女をつくれって言ってるんですか」

「じゃあ、なんの話ならいいんですか」

 

「お前、彼女いないのか」

 

「いません」

 

「欲しくないの?」

 

「そんなわけないじゃないですか」

 

「彼女にしたいって女もいないのか。職場結婚って多いんだろう?」

 

「職場にはいないんですが……」

 

和久井の脳裏に、学生時代から想いを寄せている白崎葉子が浮かんだ。

 

「俺みたいなのは駄目ですよ」

 

「なんで」

 

「なんでって言っても、もう知り合ってから長いんで、相手が俺に興味がないってことはわかるんです」

 

「はーん、学生時代からなんだな」

 

和久井はうなずいた。

 

「なんで、お前じゃ駄目なんだ。しがない信金マンだからってお前が勝手に決めてるだけなんじゃないのか」

 

図星を指された和久井は無意識に話をそらした。

 

「それに共通の知り合いもいるし、無駄な告白して雰囲気悪くなるのもつまらないじゃないですか」

 

桜さんは、ふーん、そんなもんかねえ、と言って缶ビールを呷るとニヤッと笑った。その笑いに、まあそこはこれ以上追及しないでやるよ、といった寛容さが感じられた。が、またしばらくすると、ホルモンをつつきながら桜さんは言った。

 

「俺は周りの連中の振る舞いなんか気にせず、告白したほうがいいと思うけどな」

 

和久井は答えず、カクテキを頬張った。

 

「お前のように、とりわけ二枚目ってわけでもなくて、金もそんなに持ってないけど、ちゃんと女を口説くことができたら、仕事もできるようになるぜ」

 

「仕事のために女をつくれって言ってるんですか」

 

「それはちがうな」

 

「どう違うんですか」

 

「そのふたつは同じなんだ。仕事も女も、お前の人生を生きるってことにほかならないんだよ」

 

なんだか、わかったようなわからないような物言いである。よし、だったらこの線でもう一度桜さんの過去をほじくり返してやろう、と和久井はたくらんだ。

読むだけで お金の増やし方が身につく 京都かけだし信金マンの事件簿

読むだけで お金の増やし方が身につく 京都かけだし信金マンの事件簿

菅井 敏之

アスコム

長年の取引先を次々と失う洛中信用金庫。メガバンクの巧妙な罠にはまり、貸し剥がしにあう老舗商店――。人々の夢と希望と「お金」を奪うメガバンクの策謀がうずまく京都の町を、かけだし信金マン・和久井健太が駆け巡る! 読…

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