「老人ホーム」は老後の住まいの有力な選択肢。特に介護が必要であったり、高齢者の1人暮らしだった場合、ホームに入居することで大きな安心感を得ることができます。しかし大切な家族が入居するからこそ、心配が過ぎてしまうこともあるようです。
年金月12万円〈老人ホーム入居の80代母〉食堂で1人ポツン…「これって虐待ですよね」と職員に詰め寄る家族に、母が狼狽えたワケ (※写真はイメージです/PIXTA)

「老人ホーム」のスタッフの多くが「カスハラ被害」を経験

女性の後日談。義母は今でも老人ホームライフを愉しんでいる、とのこと。女性の家族の例は単なる家族の早とちりでしたが、老人ホームは職員へのハラスメントが多いとされています。

 

日本労働組合総連合会が18歳~65歳の被雇用者またはフリーランスで、直近3年間で自身や同じ職場の人がカスタマー・ハラスメントを受けたことがある人に対し行った『カスタマー・ハラスメントに関する調査2022』によると、「医療・福祉・介護職」が受けたハラスメントで平均より10ポイント以上多かったのが「セクハラ行為」で、全体8.9%よりも11ポイント以上高い20.0%。

 

また数としては「暴言」が全体の61.4%(平均55.3%)、「説教など権威的な態度」が52.9%(平均46.7%)、「威嚇・脅迫」が38.6%(全体31.9%)と続きます。一方で「勤務先への不当な苦情、投稿」は平均23.9%よりも5ポイント以上低く17.1%。裏を返せば、顧客の迷惑行為が会社ではなく個人に向いやすい職場だといえるでしょう。

 

また厚生労働省が平成30年度に実施した『介護現場におけるハラスメントに関する調査研究事業実態調査』によると、利用者(家族含む)何らかのハラスメントをうけたことがある職員は施設・サービスの形態で差はあるものの、4~7割にものぼりました。

 

またハラスメントにより「仕事をやめたい」と感じたことのある職員は、2~4割と、決して少なくないことが分かります。

 

老人ホームや介護の現場で利用者やその家族からのハラスメントが横行しているのは、職員への過度な期待がひとつの要因。職員は入居者や利用者のために、何でもしてくれる存在だと思い込んでいる節があります。「介護=なんでもしてくれる」と勘違いしているわけです。

 

また認知症など、症状として暴言や暴力が出てしまうことがあります。これらはハラスメントとの線引きが難しく、「耐えなければならない」と我慢している職員も多いといいます。

 

介護の現場では、人手不足が常態化。高まるニーズに対応できない可能性が危惧されています。入居者や家族による職員へのハラスメントは、職員の離職を引き起こし、人手不足を誘発するひとつの要因です。大切な家族のことを思うと少々過敏になってしまうこともあるでしょうが、一度、冷静に考えることも重要です。

 

[参考資料]

日本労働組合総連合会『カスタマー・ハラスメントに関する調査2022』

厚生労働省『介護現場におけるハラスメントに関する調査研究事業実態調査』