老後生活において「年金をいつから受け取るか」は重要な選択です。ネットでは繰上げ受給のメリットも紹介されていますが、自身の家計や健康状態を考慮せずに決断すると、思わぬトラブルに直面することもあります。本記事では、60歳で繰上げ受給を始めた専業主婦の事例をもとに、年金の受給時期を決める際の注意点を辻本剛士CFPが解説します。※本記事に掲載している事例は、プライバシー保護および情報の一般化のため、実際の相談事例をベースに一部の数値や設定を変更・再構成したモデルケースです。
年金の繰上げ受給、後悔しています…貯金1,300万円・60歳専業主婦が「ネットに騙された」とこぼしたワケ【CFPが解説】
貯金1,300万円・60歳専業主婦が決断した「年金の繰上げ受給」
ヒトミさん(仮名・60歳)は、同い年の夫・ミツヒコさん(仮名)の二人暮らしです。ミツヒコさんは長年勤めた会社で60歳の定年を迎え、現在は嘱託社員として働いています。
ヒトミさんも以前は正社員として働いていましたが、退職後は専業主婦として家庭を支えてきました。夫婦が老後に向けて大切に貯めてきたお金は1,300万円。
そんなヒトミさんは、年金の繰上げ受給という決断をします。そのきっかけは、ネット記事や動画でした。
「繰上げ受給による減額率が下がり、以前より利用しやすくなった」「早めに現金を確保しておけば、急な出費にも対応しやすい」といった情報に触れるうちに、早く受け取ることに魅力を感じるようになったとのこと。
一方のミツヒコさんは、65歳以降も働くつもりでした。給与があるうちに自分の年金も受け取れば貯金もしやすくなることから、合理的な選択に思えました。
ミツヒコさんは「一生減ったままになるから、もう少し考えたほうがいい」と反対しました。しかし、家計の管理は長年妻に任せており、ヒトミさんの強い意思に押され、それ以上は強く言えませんでした。
ヒトミさんは年金事務所を訪れ、繰上げ受給を申請。65歳からなら月額約10万円の見込みだった年金は、24%減の約7万6,000円に。それでも、毎月の収入が増えることに、ヒトミさんは安心していました。
自身の年金が「全額支給停止」に…夫の急死で知った繰上げ受給の落とし穴
ヒトミさんの繰上げ受給が開始してから2年後、ミツヒコさんが心臓発作で急死するという不測の事態が起こりました。
老後も一緒に暮らしていけると思っていた夫との突然の別れです。ヒトミさんは悲しみに暮れながらも、必要な手続きを進めるために、再び年金事務所を訪れました。
説明によると、受け取れる遺族厚生年金は、中高齢寡婦加算を含めて年約154万円。ところが、担当者によると、65歳になるまではヒトミさん自身の繰り上げた老齢年金と遺族厚生年金を両方同時に受け取ることはできないというのです。
「私の年金に、遺族年金が加わるわけではないんですか?」
ヒトミさんは、繰上げの申請時にも同じような説明を受けたことを思い出しました。当時は夫が元気だったため「自分には関係ない」と聞き流していたのかもしれません。
金額の多い遺族厚生年金を選ぶと、月約7万6,000円の自身の年金は、65歳まで全額支給停止になります。さらに確認すると、65歳から支給が再開しても、繰上げによる24%の減額は生涯続くとのことでした。
夫は65歳以降も働く。その給与と自分の年金があれば、貯金できるはずでした。しかし、夫の給与を失い、遺族年金に自分の年金を上乗せすることもできません。
「良い情報ばかり書くネットに騙された気分」と、ヒトミさんはやり場のない思いを口にしました。