「老後資金はいくら必要か?」という問題は、「老後をどこで暮らすのか?」ということと深く関係しています。老後の住居選びでは、家賃だけでなく「その場所で長く暮らし続けられるか」という視点も大切です。本記事では、家賃を下げるために市営住宅へ転居した60代夫婦の事例をもとに、老後の住まい選びの注意点についてCFPの山﨑裕佳子氏が解説します。※本記事に掲載している事例は、プライバシー保護および情報の一般化のため、実際の相談事例をベースに一部の数値や設定を変更・再構成したモデルケースです。
「市営団地に当選!」年金月21万円・60代夫婦、家賃4万円に歓喜も…〈老後安泰の切符〉を掴んだはずが、赤字家計に陥ったワケ【CFPが解説】
場合によっては「再転居」も視野に…家計見直しのポイント
マサユキさん夫婦がこれから取り組むべきは、現在の家計の内訳を改めて洗い出し整理することです。特に、今後も継続する支出の見極めが重要です。
たとえば、サチコさんの足の状態が回復すれば、タクシーの利用頻度は減り、交通費が落ち着く可能性があります。一方で、今以上の回復が難しい場合は、現在の住まいに住み続けること自体が家計の負担になることも考えなければなりません。
再転居を検討する場合、家賃はもとより、以下の項目も含めた全体としての暮らしやすさを比較することが重要です。
住居費:家賃、共益費、更新料、引っ越し費用
移動・生活費:交通費、買い物や通院にかかる費用
将来の暮らしやすさ:階段や坂道、交通の便、医療機関へのアクセス、介護などの支援の充実度
毎月4万円の赤字が30年続けば「約1,440万円」が必要…「暮らしやすさ」を含めてトータルで考える
総務省『家計調査報告(2025年)』によると、「65歳以上の夫婦のみ無職世帯」の家計収支は毎月4.2万円が不足するという結果でした。あくまで平均値であるため個々により状況は異なりますが、仮に生活費が毎月4万円不足した状態が30年間続いた場合、単純計算で1,440万円の貯蓄が必要ということになります。
必要な老後資金を試算する際に大切なのは、日常生活費だけでなく、住居費や生活環境を含めた条件をもとに考えることです。
たとえば、今後30年間暮らすことを想定した場合、家賃が2万円違えば、単純計算で720万円の差が生じます。一方で家賃が安い物件を選んでも、その分交通費や生活支援にかかる費用が多ければ、家賃の差は相殺される可能性があるでしょう。
将来の医療費や物価上昇などを正確に予測することは不可能です。しかし、年金収入と貯蓄をもとに、今後の生活費、居住費をある程度見積もることで、住み替え費用や毎月の生活費に使える許容範囲が見えてきます。
老後の住まいは、一度決めたら一生変えられないものではありません。しかし、住み替えには一時費用がかかるため、無計画な転居を続けると選択肢が限られてしまうこともあります。
目先の支出だけにとらわれず、将来の家計と暮らしやすさの両方を意識して準備しておくこと。それが、限られた年金と資産で安心して老後を過ごすための大切なポイントです。
山﨑 裕佳子
FP事務所MIRAI
1級ファイナンシャル・プランニング技能士
CFP®
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