「年金も半分」の思い込みと、一人の老後に残るお金

もう一つの誤算は年金でした。

浩一さんは、自分から離婚を申し出たこともあり、婚姻期間中の厚生年金の記録を「按分割合50%」で分けることに同意しました。50%は、制度上認められる上限割合です。

「按分割合50%」と聞き、「夫の年金の半分がもらえる」と受け止めていた真理子さん。浩一さんの年金222万円の半分、つまり111万円を真理子さんの年金87万円と合わせると、年間およそ198万円(月額約16.5万円)ほどになる計算です。

ところが、年金事務所で分割後の見込額を確かめると、年約154万円、月約12.8万円でした。真理子さんが想定していたより、月3.7万円ほど少ない金額です。

実は、年金分割の対象となるのは、婚姻期間中の厚生年金の記録だけ。老齢基礎年金は分割されず、浩一さんが結婚前に働いた3年分の記録も対象外です。※3 結果として、年金分割による真理子さんの年金増額は、年間およそ67万円にとどまりました。

真理子さん:親から相続した自宅+金融資産約1,000万円+年金=月約12.8万円

浩一さん:親から相続した実家+金融資産約3,500万円(分与1,000万円+相続2,500万円)+年金 =月約13万円

どちらも親から受け継いだ住まいがあり、年金額にも大きな差はありません。しかし、金融資産に目を向けると、真理子さん1,000万円、浩一さん3,500万円と、その差は顕著です。

果たして、月12.8万円の年金で一人暮らしは成り立つのでしょうか。

総務省の家計調査(2025年)によると、65歳以上の単身無職世帯では、生活費(消費支出)が平均月約14.8万円、税金や社会保険料が月約1.3万円です。合わせて月約16.1万円※4。真理子さんの年金12.8万円では、月々約3.3万円の赤字が出る計算です。住宅の固定資産税や修繕費、医療や介護の費用を考えると、真理子さんの金融資金1,000万円は決して「余裕資金」ではなく、これからの暮らしを支える大切な老後資金であることが分かります。

また、婚姻関係が継続しており、かつ夫が先に亡くなった場合に受け取れる可能性があった遺族厚生年金も、離婚すれば受給できません。

突然離婚を切り出された真理子さんは、これまでの暮らしだけでなく、妻として長く担ってきた役割まで一度に揺らいだように感じました。それでも、話し合いを重ねながら一つずつ数字を確かめたことが、離婚後の暮らしを考える土台になりました。

真理子さんと同じような立場になったとき、合意の前に確認しておきたいことは3つあります。

1つ目は、「年金分割のための情報通知書」を請求し、分割後の見込額を確かめること。50歳以上で一定の要件を満たす場合は、年金見込額の試算を希望できます。※5

2つ目は、離婚後の家計を、額面ではなく税金や保険料を差し引いた手取りで試算してみること。

3つ目は、期限を正しく知ることです。2026年4月以降に成立した離婚であれば、財産分与と年金分割の請求期限は、原則として離婚から5年です。期限を知ったうえで、リフォーム費用の扱いなど迷う点は、合意の前に弁護士などの専門家に確認しておきましょう。

「半分に分けること」と、「半分になったお金で暮らしていけること」は同じではありません。夫婦の年金と貯蓄を合わせて「わが家は何とかなる」と思っているなら――その数字は、一人になっても成り立つでしょうか。

[参考]
※1 ※2 法務省HP「離婚を考えている方へ」 https://www.moj.go.jp/MINJI/parents_012.html

※3 日本年金機構「離婚時の厚生年金の分割(合意分割制度)」https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/seido/kyotsu/rikon/20140421-02.html

※4 「家計調査報告 家計収支編、2025年(令和7年)平均結果の概要」 https://www.stat.go.jp/data/kakei/2025np/pdf/summary.pdf

※5 日本年金機構「QQ.年金分割後の年金見込額を知りたいのですが、どうすれば知ることができますか。」https://www.nenkin.go.jp/section/faq/jukyu/seido/kyotsu/rikonbunkatsu/20140421-14.html

三原 由紀
プレ定年専門FP®

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