「ちゃんと返しているから問題ない」…夫のお金が見えないまま36年

「個人年金、解約したってどういうこと?」

鈴木真理子さん(仮名・59歳)が尋ねても、夫ははっきり答えませんでした。

夫は61歳。大学卒業後、大手メーカーに入社し、60歳で定年後も継続雇用で働いています。真理子さんも短大卒業後に同じ会社へ入社し、23歳で職場結婚しました。

真理子さんが27歳のときにマンションを購入しましたが、直後に夫の転勤が決まったため、退職して夫に同行することに。マンションは賃貸に出し、29歳で長男を出産、その後も転勤が続きました。

長男の中学進学を機に母子で自宅マンションへ戻り、夫は単身赴任に。真理子さんはパートを始め、45歳ごろからフルタイム、48歳で正社員となり、現在の月収は約25万円です。

夫婦のお金の管理方法は、結婚当初からほぼ同じでした。夫は給与も預貯金も自分で管理し、妻には毎月決まった生活費を渡す。住宅ローンや教育費も夫が負担してきました。

生活に困ったことはありません。ただ、真理子さんは夫の預貯金がいくらあるのかを知りません。夫は車が趣味で、以前から時折カードのキャッシングを利用していました。「どうして借りるの?」と尋ねても、返ってくるのは「ちゃんと返しているんだから問題ないだろ」という言葉だけでした。

夫名義の個人年金保険が、勝手に解約されていた

一方、真理子さんは働いて得たお金をやりくりし、まとまった額になると住宅ローンの繰上げ返済に充ててきました。現金を手元に残すより借金を減らすほうが安心――。そう考えて返済を続けた結果、住宅ローンは夫の定年前に完済しました。

ところが夫が定年を機に単身赴任を終えて自宅に戻り、老後のお金を確認しようとしたとき、真理子さんは、老後資金の一つだと思っていた夫名義の個人年金保険が、すでに解約されていたことを知ります。

いつ、いくらで解約し、何に使ったのか……夫は何も説明しようとしません。

「退職金は? ほかに借りているお金はないの? 一度、これからのお金を全部整理しようよ」

真理子さんがそう切り出しても、「俺が管理しているんだから心配するな」と言って取り合いません。

「俺が管理している」――その言葉を聞いたとき、それまで別々だった出来事が、真理子さんのなかで一本につながりました。繰り返してきたキャッシング。教えてくれない使い道。知らない間に解約されていた個人年金。そして、夫が60歳で受け取った約1,900万円の退職金も、これまでと同じように夫が管理しています。

現役時代は毎月給与が入りましたが、これから夫婦が頼るのは、蓄えてきた資産と年金です。

「この人と老後を過ごしたら、家にいくらお金があるのか、私は一生知らないままなんだ」

怖くなったのは、個人年金がなくなったことだけではありません。老後のお金について話し合うことすらできない。そう気づいたとき、真理子さんは初めて、この人との老後は難しいと考えるようになりました。