子どもの誕生や成長を祝う通過儀礼は、本来であれば家族の絆を深める慶事のはずです。しかし、家族間で異なる価値観や金銭の授受を巡り、些細なすれ違いから深刻な対立へと発展するケースも。事例を見ていきましょう。※本記事に掲載している事例は、プライバシー保護および情報の一般化のため、実際の相談事例をベースに一部の数値や設定を変更・再構成したものです。
孫とはもう5年会っていません…年金月12万円の72歳父を、長男一家と疎遠にさせた「お宮参り」での失言 (※写真はイメージです/PIXTA)

写真1枚で仲間外れにされた怒り

「私は間違ったことなんて一つもいっていませんよ。謝るべきなのは、筋を通さなかった向こうのほうです」

 

語気を強めるのは地方の郊外で暮らすキヨシさん(72歳)です。キヨシさん自身の年金は12万円。夫婦合わせて月約19万円の年金収入とシルバー人材センターでのわずかな収入で、妻のジュンコさん(70歳)と暮らしています。

 

夫婦にとって待望の初孫が生まれたのは、世の中が新型コロナウイルスの感染拡大に見舞われていた時期でした。都内で暮らす長男夫婦に男の子が誕生したという知らせに、夫婦は「ようやく我が家にも内孫ができた」と胸を躍らせていたのです。

 

ところが、生後数ヵ月が経ったころ、息子の嫁・マホさんからの電話を発端に暗雲が立ち込めます。

 

当時、キヨシさんもジュンコさんも平日は仕事に出ていました。マホさんからは「感染者が多い時期だし、子どもも小さいから、混雑を避けて平日に、予定を合わせられる人だけで短時間で済ませようと思っています」と告げられたといいます。

 

「私たちも平日は仕事がありますからね。『平日なら私たちは行けないけれど、無事に済ませなさい』と返したんです。年金暮らしで生活は苦しいけれど、お祝いのお金だって、次に直接顔を合わせたときに渡そうと、きちんと用意していました」

 

ところが数日後、マホさんから送られてきた写真を見て、夫婦の空気は一変しました。妻のジュンコさんは、声を荒らげます。

 

「向こうのお母さんは行ってるじゃないの」

 

送られてきた写真には、着物姿の孫を抱く息子夫婦の隣で微笑むマホさんの母親の姿が写っていました。

 

キヨシさんは当時の怒りを、昨日のことのように振り返ります。

 

「耳を疑いましたよ。『平日だから』といっておきながら、実際は向こうの母親だけ呼んでいたなんて。こっちは仕事があるからと遠慮したのに。それを『写真だけでも見せてあげよう』なんて、上から目線で送りつけてくる神経が信じられませんでした」

 

「本当にバカにされたものね。失礼すぎるわ」とジュンコさんも憤慨。妻の悔しがる姿を見て、キヨシさんも怒りが収まりません。すぐさまマホさんに電話をかけ、怒鳴りつけたとのこと。

 

「お宮参りは両家揃って祝うのが常識だろう。こっちには体よく断っておいて、あなたの親だけ呼んで済ませた写真を送りつけてくるとは何事だ。そんな不義理をして恥ずかしくないのか! 私たちだって祖父母なんだぞ。のうのうと写真に写っているあなたの親も常識がなさすぎる」

 

マホさんはなにか言い訳のようなことをいっていたそうですが、そのまま電話を切ったキヨシさん。息子からは後日、「平日休めない親に気を遣っただけだった」「妻は自分の親を『非常識』といった失言に怒っており、謝罪がない限りもう会わせられないといっている」と連絡が入りましたが、キヨシさんが応じる気は毛頭ありません。

 

「失言? なにが失言ですか。親をないがしろにして義理を欠いたのは向こうです。嫁の親だって、うちが来ていないとわかっていながら平然と参加しているんだから。それを棚に上げて『謝れ』だの『会わせない』だの……。嫁の尻に敷かれて親に盾突く息子にも心底愛想が尽きました」

 

以降、長男一家とは疎遠になってしまいました。

 

初孫のお宮参りから5年。孫はもう5歳になっているはずですが、キヨシさんもジュンコさんも、写真越しに見た赤ん坊のころの姿しか知りません。

 

「孫とはもう5年会っていません。孫にはなんの罪もないし、そりゃ会いたいですよ。だが、筋を通さず親を侮辱したあいつらが頭を下げてこない限り、こちらから歩み寄るつもりは一切ありません。あんな親に育てられて、孫が可哀そうでなりません」

 

戸棚には、5年前に送られてきた写真が伏せられたまま、埃をかぶっていました。