定年後、子どもや孫のために時間を使うことが生活の一部になっている人もいるでしょう。送迎や買い物の手伝いなど、家族から頼られることにやりがいを感じる人もいます。一方、孫の成長や家族の生活環境の変化によって、これまで必要とされていた役割が変わることもあります。ある男性の事例から、老後の生きがいと家族の変化について考えます。※本記事に掲載している事例は、プライバシー保護および情報の一般化のため、実際の相談事例をベースに一部の数値や設定を変更・再構成したモデルケースです。
「もう来なくていいよ」孫の塾帰り、毎週迎えに行っていた〈年金月18万円・68歳祖父〉、生きがいを失ったその後 ※写真はイメージです/PIXTA

「迎えに行くよ」が当たり前に…孫の塾通いを支えた68歳

伊藤誠さん(68歳・仮名)は、妻と2人で暮らしています。3年前に会社を定年退職し、現在の収入は夫婦合わせて月18万円ほどの年金のみ。しかし住宅ローンは完済しており、日々の生活に大きな不自由はありません。

 

一方、長女の愛さん(43歳・仮名)は、車で20分ほどの場所に住んでいます。夫と中学1年生の息子、小学4年生の娘との4人暮らしです。

 

伊藤さんが孫の世話をするようになったのは、長女から相談されたことがきっかけでした。愛さんは仕事を続けており、息子が塾に通い始めたころ、帰宅時間が遅くなる日が増えたといいます。

 

「塾が終わるのが夜の8時半ごろでね。娘が仕事で迎えに行けない日があるというので、私が車で迎えに行くことにしたんです」

 

当初は週に1、2回でした。ところが、仕事の都合で長女が迎えに行けない日が増え、伊藤さんが担当する日も次第に多くなります。

 

塾の終了時刻に合わせて家を出て、孫を自宅まで送り届ける。帰宅するのは夜9時を過ぎることもありました。それでも伊藤さんは、孫が困らないようにと送迎を続けました。

 

「孫から『おじいちゃん、ありがとう』と言われるとうれしかったですね。娘からも助かると言われていましたし、退職して時間ができた自分にできることだと思っていました」

 

ところが、中学生になった孫の生活に変化が現れます。部活動が始まり、塾の曜日も変更されました。友人と一緒に帰る日も増え、以前ほど祖父の迎えを必要としなくなったのです。

 

ある日の夕方、伊藤さんはいつものように長女から連絡が来るのを待っていました。しかし、その日は何もありません。気になって電話をすると、愛さんは「今日は自分たちで迎えに行けるから大丈夫」と答えました。

 

伊藤さんは、翌週の予定も確認しようと孫にメッセージを送りました。すると、しばらくして返事が届きます。

 

「もう来なくていいよ。友達と帰る日もあるし、自分で帰れるから」

 

伊藤さんは、孫が成長していることを理解していました。それでも、毎週のように続けてきた送迎が必要なくなったと告げられ、戸惑ったといいます。

 

「自分では役に立っているつもりでした。急に必要なくなったような気がして、少し寂しかったですね」

 

内閣府『令和5年度 高齢者の住宅と生活環境に関する調査』によると、65歳以上の人のうち、日常生活で家族や知人から「子や孫の世話」を頼られている人は26.0%。高齢者が家族の生活を支える役割を担うことは珍しくありません。