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「ここは俺が払うよ」 70歳元営業部長の誤算
佐藤茂さん(仮名・70歳)は現役時代、メーカーで営業職として働き、営業部長を務めた経験もあります。60歳の定年後も再雇用で65まで勤務しました。現在は妻と2人暮らしで、夫婦の年金収入は月約30万円(そのうち茂さんの年金は月20万円ほど)。住宅ローンは完済し、大きな負債はありません。
「営業職なので、接待をすることが多かったです。相手に気持ちよく過ごしてもらうことが大切で、後輩にごちそうするのも特別なことではなかった。役職がついてからは、そういう場面も増えました」
退職後は、仕事上の付き合いこそ減ったものの、昔の同僚との交流は続いていました。
そんなある日、かつて同じ営業部で働いていた元同僚から、久しぶりに食事をしようと連絡があったといいます。佐藤さんは、せっかくの再会だからとホテル内のレストランを予約しました。
「安い店で済ませるより、たまにはきちんとしたところで食事をしたいと思ったんです。昔の仲間ですし、格好をつけたい気持ちもあったんでしょう」
食事会では、退職後の過ごし方や家族の話題が出ました。旅行を楽しんでいる元同僚もいれば、孫の世話で忙しいという人もいたそうです。
「みんな、それぞれ楽しそうに暮らしているように見えました。私も、あまり生活が変わっていないような話をしたと思います」
実際には、夫婦で出かけるのは年に1、2回程度。ゴルフも以前より回数を減らし、日々の買い物では値段を気にするようになっていました。それでも、昔の仲間の前で生活の変化を話すことには抵抗があったとのことです。
「現役時代はそれなりに稼いでいましたからね。今は年金暮らしで、以前のようには使えない。でも、わざわざそんな話をするのも嫌だったんです」
食事を終えたとき、佐藤さんは自分から全額を払うと申し出たといいます。
「『今日は俺が払うよ』と言ったんです。みんなからは割り勘でいいと言われたんですが、つい『いいんだよ』と。昔からの仲間に、細かいことを言いたくなかったんでしょうね」
会計は約18万円。佐藤さんはカードで支払いを済ませました。みんなに喜んでもらえたなら、それでいい――ところが、帰宅して落ち着くと、支払った金額が気になり始めました。
「18万円ですからね。冷静に考えれば、年金暮らしの自分にとっては大きな出費です。あの場では格好をつけてしまいましたが、家に帰ったら急に後悔の念が……」
佐藤さんは、久しぶりに預金通帳を確認しました。仕事を辞めたときには、3,000万円を超える貯蓄がありました。しかし、自宅のリフォームや子どもの結婚時の援助などに充て、日々の生活費も足りないときは貯蓄から補填しています。
「年金は夫婦で月30万円、手取りで月25万円ほどあります。それで十分なんですが、貯蓄はなんだかんだで半分くらいになりました。そんな状況なのに、なぜ18万円も使ってしまったのか……」
妻には、食事会で全額を支払ったことをまだ話せていないそうです。
「仲間にいい顔をしたかっただけなんです。割り勘にしようと言えば済んだ話でした。昔の金銭感覚を引きずっている自分が情けなくなりました」