お店の経営を揺るがす問題の一つに「万引き」があります。万引きと聞くと食料品や衣料品などをイメージする人が多いかと思いますが、お店の「備品」を持ち帰ることも立派な犯罪です。しかし、備品を持ち帰る人のなかには、悪意では片づけられない事情を抱えているケースがあります。ショッピングカート泥棒に頭を悩ませているスーパーの事例から、「高齢者の貧困と孤立」について見ていきましょう。※プライバシーに配慮するため、登場人物の情報に一部変更を加えています。
「ふざけんな、またかよ!」スーパーの店長(男性・50歳)がショッピングカート泥棒の被害でイライラ…常連客からのタレコミで大量に発見された〈とある場所〉
「またか…」連日ショッピングカートが盗まれ、店長はイライラ
「これで何回目だよ……」
近畿地方にあるスーパーマーケットで店長を務める宮下洋介さん(仮名・50歳)は、連日のように相次ぐショッピングカートの盗難に頭を悩ませていました。
カート回収を担当した従業員から、毎週のように「ショッピングカートの数が減っている気がする」という報告を受けているのです。1~2台が盗まれただけなら、すぐには気づけないかもしれません。しかし、毎日のように数台ずつなくなると、1週間もすれば目視でもわかるレベルになります。
「このままだとカートの数が足りなくなる可能性があるので、追加発注を検討したほうがいいと思います」
従業員の言葉に、店長の宮下さんは聞こえないようにため息をつきます。ショッピングカートの購入費用は1台あたり8,000円~1万円ほど。数台のみの販売は受けつけていないメーカーが多いため、少なくとも10台以上は購入しなければなりません。少なく見積もっても、カートの追加購入費だけで10万円はかかります。
10万円の備品費が定期的にかかると、当然のように店舗の営業利益にも響きます。本部に発注申請をするたびに「なんでそんなに減ってるの? 管理はどうなってるの? 防犯対策はしてるの?」と責められる始末……。そのため、宮下さんは「なるべく発注せずに他店から回してもらえるように頼んでみてほしい」と粘っていましたが、ほかの店舗もカートの数に余裕がありません。
「こうなったら、カートを盗めない仕組みを作るしかない」
宮下さんは一つのアイデアを思いつきます。
100円玉を入れてカートを利用する方式を導入
宮下さんは、コイン返却式のカートを導入することにしました。カート同士がチェーンでつながれており、手持ちの100円玉を投入口に入れるとロックが外れてカートが使えるようになります。使用後は、元の場所に戻してチェーンをつなぐと100円玉をそのまま戻ってくる仕組みです。
お客様からは不満の声も聞こえてきましたが、カートの盗難は驚くほど減少しました。
「何も悪くない人に迷惑をかけるのは心苦しいけど、今はこうするしかない」
複雑な気持ちを抱えつつ、宮下さんはほっと胸をなで下ろしました。