離婚が珍しくなくなった現代において、不信感を抱えながらも「仮面夫婦」として同居を続ける決断には、それぞれの切実な事情が存在します。事例をご紹介します。※プライバシー保護のため、事例の人物名はすべて仮名です。
「そうするしかなかった」世帯年収1,700万円の37歳共働き夫婦、新婚1年目から10年間〈仮面夫婦〉を続けている理由 (※写真はイメージです/PIXTA)

子育てをする女性のキャリアを支えるもの

厚生労働省『令和6年 人口動態統計』によると、2024年の年間離婚件数は18万5,904組、離婚率(人口千対)は1.55となっており、2023年以降、離婚件数・離婚率ともに再び増加傾向を示しています。社会全体で離婚という選択肢が一般化する一方で、エリさんのように高所得な共働き世帯の「あえて世帯を解体しない選択」が採られるケースも見られます。

 

一般にひとり親世帯の経済的課題は深刻であり、厚生労働省『国民生活基礎調査』によれば母子世帯の平均所得金額は全世帯平均と比べて大幅に低い水準に留まっています。こども家庭庁『全国ひとり親世帯等調査(令和3年)』においても母子世帯の母の平均就労収入は236万円と算出されており、離婚後の自立に向けたハードルの高さを裏付けています。

 

調査での考察においても、離婚後の生活困窮を防ぐには十分な計画と就労環境の整備が必要不可欠と分析されていますが、これは一見して経済的に自立している高所得女性にとっても例外ではありません。エリさんのように個人で年収750万円という高い収入を得ているケースであっても、子どもがいる場合、そのキャリアや高年収を維持できるのは、独身時代のように制限なく働ける状態か、家事や育児のタスクを夫婦2人で支え合える環境が前提となっているためです。

 

さらに、文部科学省『子供の学習費調査(令和5年度)』を見ると、世帯年収が高い層ほど住宅関係費や学校外活動費(進学塾・習い事)への支出絶対額が高くなる傾向があることがわかります。世帯年収1,700万円で維持されている現在の高い生活水準や教育環境は、世帯分離によって住居費や光熱費などの固定費が二重化した場合には大幅な見直しを迫られるでしょう。各自の単身家計に分散されることで、従来どおりの教育費への支出を維持することが困難になるのです。

 

加えて、総務省『令和8年 社会生活基本調査』における共働き世帯の生活時間分析が明かすように、有業者の家事・育児時間は特定の片側に偏りやすい構造があります。特に責任ある役職に就くフルタイム労働者がワンオペ状態に移行した場合、保育園や学校の送迎、突発的な病気への緊急対応等の面で物理的な時間の限界に直面し、自身のキャリア縮小や離職リスクへつながりかねません。同一世帯内で「生活機能や育児タスクの分担」を継続すること自体が、自身の高年収キャリアを維持するための前提条件となっているともいえます。

 

社会的に離婚のハードルが下がった現代において、エリさんの選択は一見すると矛盾のように映るかもしれません。しかし、「夫婦の愛」という従来の枠組みを手放してでも、積み上げてきたキャリアと子どもの豊かな未来を守り抜くこと――それもまた、過酷な現実に直面した彼女が自ら手繰り寄せた、ひとつの「幸せの守り方」なのかもしれません。

 

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