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「老後資金は残しておくもの」と考えていた
「老後資金、何のために貯めたんだろう」
そう話すのは、神奈川県在住の田中茂さん(仮名・74歳)です。妻の洋子さん(仮名・71歳)と2人で暮らしています。
茂さんは65歳で長年勤めていた会社を退職。夫婦の年金は合わせて月25万円ほどです。現役時代から少しずつ貯蓄を続け、退職時には約2,800万円ありました。現在も約2,600万円が残っています。
生活に困っていたわけではありません。それでも夫婦は、できるだけお金を使わない生活を続けてきました。
「病気になるかもしれないし、介護が必要になるかもしれない。家族に頼ることだけは避けたかったんです」
外食をすることはほとんどなく、旅行も、定年直後に一度行ったきりです。「温泉にでも行きたいね」と夫婦で話しても、「来年には行こう」と先送りしていました。
家具や家電も、壊れるまで使いました。友人から食事や旅行に誘われても、費用が気になり、断ることも多かったといいます。
総務省『家計調査(家計収支編)』によると、2025年の65歳以上の夫婦のみの無職世帯は、可処分所得が月22万1,544円、消費支出が26万3,979円で、月4万2,434円の赤字。高齢期には医療や介護など、将来の支出も見込まれます。一定の貯蓄を確保しておくことは重要です。
茂さん夫婦も「残しておくこと」が習慣になっていました。
そのようななか、71歳になった洋子さんに膝の痛みが出始めます。病院に通いながら生活するようになり、以前のように長時間歩くことが難しくなりました。
ある日、茂さんは以前から話していた温泉旅行について、改めて妻に聞きました。
「今年こそ、行ってみるか」
すると洋子さんは、「泊まりで遠くに行くのは、もうちょっと自信がない」と答えました。
茂さんは、その言葉を聞いて黙ってしまったそうです。
「お金はあるのに、元気なときに使わなかった。もっと早く行っておけばよかったと思いました」
夫婦が旅行を先送りしてきたのは、経済的な理由というよりも、「老後は長い。できるだけ減らさないほうが安心だ」という考えによるものでした。