単身世帯と異なり、家族と同居している高齢者は行政や地域の見守り対象から外れやすく、孤立が周囲から見えにくいといった課題があります。86歳女性が「同居孤独死」に怯える背景にはなにがあるのでしょうか。事例をご紹介します。※プライバシー保護のため、事例の人物名はすべて仮名です。
「孤独死が怖くてたまりません」年金14万円の86歳女性、52歳娘と“一つ屋根の下”で暮らしているのに、「誰にも看取られず死ぬかも…」と怯えているワケ (※写真はイメージです/PIXTA)

86歳女性が、同居孤独死に怯える理由

「娘と一緒に住んでいるのに、こんなことをいうのは贅沢かもしれません。でも、私はこの部屋で誰にも気づかれずに死んでいくんじゃないかと、毎日怖くてたまらないんです」

 

都内の一軒家で暮らすマツさん(86歳)は、震える声でそう明かします。

 

夫を10年前に亡くしたマツさん。現在の収入は、月額約14万円の公的年金のみです。自宅には、独身で派遣社員として働く52歳の娘・ヒトミさんが同居しています。傍から見れば「娘と同居していて安心な老後」に見えるかもしれません。しかし、実際の親子関係は冷え切っていました。

 

きっかけは6年前、ヒトミさんの勤め先の業績が悪化し、雇用形態が変更されて収入が大幅に減ったことでした。当時一人暮らしをしていたヒトミさんは、賃貸アパートを引き払い、実家に戻ってくることに。マツさん自身も経済的に余裕はなく、たびたびお金のことで揉めていた二人。将来への焦りと生活の余裕のなさから、ヒトミさんは次第に母へのイライラを募らせるようになり、家に帰ってきても自分の部屋に閉じこもりがちになったのです。

 

マツさんの月14万円の年金から食費や光熱費を出し、生活を支えている状態にもかかわらず、現在の二人のあいだには会話らしい会話がほとんどありません。ヒトミさんは朝早く出勤し、夜遅くに帰宅すると、リビングを通らずそのまま2階の自室へ向かいます。マツさんが「おかえり」「ご飯はどうする?」と声をかけても、返ってくるのは不機嫌そうな溜め息や「あとにして」「いらない」という短い返事だけでした。

 

さらに、マツさんをすくませる出来事が起きます。

 

ある夜、マツさんが自室で急なめまいに襲われ、動けなくなったときのことです。2階に向かって「ヒトミ、ちょっと来て」と必死に呼びかけましたが、自室でイヤホンをつけてスマホに夢中になっていたヒトミさんはまったく気づかず、翌朝まで部屋に上がってきませんでした。

 

翌朝、顔を合わせたヒトミさんに「昨夜、急に具合が悪くなっちゃって。あなたのこと、何度も呼んだのよ」と伝えても、「え? 気づかなかった。大げさなんだから」と素気なく言い捨てられただけでした。

 

「娘は生活を私の年金にかなり頼っているのに、私の体調や存在にはまるで関心がない。もし私が部屋で倒れて息絶えても、何日も気づかれないのかと不安でたまらないんです……」

 

一つ屋根の下に家族がいるはずなのに、心は完全に分断されている――。加齢により自身の身体が少しずつ衰えていくのを感じるなかで、マツさんの胸には「同じ家の中で放置されたまま孤独死するのではないか」という強烈な恐怖と虚しさが重くのしかかっています。