(※写真はイメージです/PIXTA)
「浪人させてください」という息子に父は…
「子どもの教育費で困ることはないだろう」
都内の中堅企業で課長職を務めるカツヒサさん(51歳)は、ずっとそう考えていました。現在の手取りは月60万円。共働きの妻の収入もあり、東京郊外に建てた戸建て住宅のローンも順調に返済中。暮らしに特段の不自由はなく、一人息子のユウトさん(19歳)の将来についてもやや楽観しているところがありました。
そんな家庭の風向きが変わったのは、ユウトさんが高校2年生のときでした。進路相談でユウトさんが「将来は医者になりたい」と打ち明けてきたのです。
もともと成績は常に学年のなかでも上位だったユウトさん。これまで将来の夢をあまり口にしてこなかった息子の決意を、カツヒサさんは嬉しく思ったものの、内心大慌て。医学部の学費が高額であることも知っていたからです。受験対策を進めるなかで、国立大学への合格はハードルが非常に高く、実力や対策の観点から私立大学医学部に絞って受験準備を進めることになりました。
それからのユウトさんは、部活動を引退したあと必死に受験勉強へ励みました。深夜まで机に向かう息子の姿を見守りながら、カツヒサさんも陰ながら応援を続けていました。
しかし、迎えた合格発表の時期。私立の第一志望としていた医学部は不合格となり、抑えとして受けていた私立第二志望の医学部には受かりました。
「父さん、ごめんなさい。第一志望はダメだった……。でも、どうしても第一志望の大学に行きたいんだ。もう1年頑張らせてほしい」
「浪人して再挑戦したい」と頼み込むユウトさんを前に、カツヒサさんは苦悶の表情を浮かべます。
頭の中を駆け巡ったのは現実的な金銭計算です。医学部専門の予備校に通わせるとなれば、それだけで年間数百万円の費用がかかります。さらに、もう1年浪人させたからといって来年確実に第一志望に合格できる保証もありません。そしてなにより、合格をもらっている第二志望の私立医学部のほうが第一志望の大学よりも高額でした。初年度だけで約700万円、6年間の総額では3,000万円以上の学費がかかります。予備校代を払ったうえで、さらに将来の巨額な学費まで背負う余裕は、どれだけ計算しても我が家の家計にはありませんでした。
頭を抱え、長い沈黙の末にカツヒサさんは苦悶の表情で重い口を開きました。
「すまん……浪人は、勘弁してくれ。もう1年挑戦させる予備校代の余裕も、来年の保証も我が家にはないんだ。合格した大学に行ってくれないか。どこの大学だろうが医者にはなれるじゃないか」
ユウトさんは、首を縦に振りました。こうして、第二志望の私立医学部への進学が決まりました。
学費を親の貯蓄と手取り収入だけで支払うことは到底不可能であるため、日本学生支援機構(JASSO)の貸与型奨学金を最大限利用し、不足分は国の教育ローンなどを組み合わせて調達する方向で手続きを進めることになりました。
「息子の夢を潰さずに済んだ安堵感はありますが、卒業時に背負う数百万円の返済は息子自身の負担になります。親として満額を出してやれなかった申し訳なさを抱えつつ、夫婦で少しでも返済の手助けができるよう働き続ける覚悟です」と、カツヒサさんは静かに語ります。