大手企業で部長を務め、退職時には5,000万円の金融資産があった田中さん。退職後は生活水準も下げ、「これなら大丈夫」と考えていました。ところが退職から1年後、90歳までの家計を試算してみると、毎月の生活費とは別に、老後設計から抜け落ちていた「大きなお金」の存在に気づくことに――。FPの三原由紀氏が解説します。
「ぜいたくなんてしてないのに、どうして年間800万円も出ていくんだ?」年収1,200万円・老後資金5,000万円の61歳元部長が青ざめた、老後にかかる〈見えないお金〉【FPが解説】
全部やめる必要はない。まずは「毎月出ていかないお金」を取り分ける
では、ゴルフも外食もやめるべきでしょうか。長年働いて迎えたリタイア生活を「使わないこと」だけの暮らしにしても、長続きはしません。
大切なのは順番です。まず、修繕や家電、車、旅行といった特別費のおおよその時期と金額を見積もり、生活費とは別枠で取り分けます。時期も金額も読めない医療・介護費は、「手をつけない予備費」とします。そのうえで、残りの資産と年金から毎年使える生活費を逆算します。
田中さんの場合、特別費に500万円、介護など不確定な支出への予備費に500万円を先に取り分けると、現在の生活設計では90歳までに約1,000万円が不足する計算です。ただ、これを残り30年でならせば年35万円ほど。月3万円弱の見直しを積み重ねれば、埋められる額でもあります。
日々の支出は、満足度への影響が小さく金額の効果が大きいところから見直します。外食の回数を減らし、週末は少し上質な惣菜を自宅で楽しむ。ゴルフは月2回を月1回に。
効果が大きいのは車です。駅に近い田中さんの自宅なら、75歳を待たずに車を手放し、必要なときだけカーシェアを使う方法もあります。仮に70歳で手放せば、利用料を差し引いても5年間で200万円以上が浮き、車の買い替えという特別費もなくなります。その分、日々の生活費を削る幅も小さくできます。長年乗ってきた車を手放すのは寂しいものですが、「行きたいところに行ける自由」はカーシェアでも保てます。
都内の持ち家があれば、自宅を担保に老後資金を借りる「リバースモーゲージ」という手段もありますが、金利や不動産価格の変動リスクがあるため、あくまで最後の備えと考えておきたいところです。
そして欠かせないのが妻との共有です。いずれどちらかの体力や判断力が衰えることもありえます。1人で管理してきた家計を妻にも開き、「何にお金を使いたいか」「どんな暮らしを残したいか」を元気なうちに話し合っておくことが大切です。
毎月の支出をきちんと記録していた田中さんも、30年分を足してみて初めて、家計簿に載らないお金に気づきました。老後資金を考えるとき、家の修繕や車、医療や介護のための「取り分け」まで見込めているでしょうか。残高の数字だけでなく、そのお金が「いつ、何に」出ていくのか。一度、見直してみる価値はありそうです。
三原 由紀
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