妻が先に亡くなったらどうなる?…絶体絶命のリスクを防ぐ「予備的遺言」

しかし、これだけで完璧とはいえません。もし、財産を受け取るはずの妻・キョウコさんが、マサオさんよりも先に亡くなってしまったらどうなるのでしょうか。

遺言書で指定した相手が遺言者より先に死亡した場合、その部分の遺言は原則として無効になります。つまり、キョウコさんが先に亡くなれば、「妻に全財産を相続させる」という遺言は効力を失い、結局は弟のテツヤさんが再び法定相続人として浮上してしまう可能性があるのです。

そこでマサオさんは、「万が一、妻が私より先に亡くなっていた場合は、全財産を甥のダイキに相続させる」という内容を遺言書に付け加えることにしました。

亡き姉の息子であるダイキさんとは現在も良好な関係が続いており、マサオさんとしても「弟に渡るくらいなら甥に譲りたい」と考えたからです。

このように、第一希望の相続人が先に亡くなった場合に備え、次点となる受取人をあらかじめ指定しておく方法を「予備的遺言」と呼びます。

マサオさんは公証役場へ足を運び、法的な不備が生じにくい「公正証書遺言」としてこの内容をまとめました。これでようやく、絶縁した弟の介入を防ぐ手立てが整い、マサオさんは安堵の息をつきました。

このように、子どものいない夫婦の相続において、兄弟姉妹への遺産流出を防ぎ、残された配偶者を守るためには、遺言書が重要な役割を果たします。では、実際にこうした遺言を作成する際、どのような点に注意すればよいのでしょうか。

【弁護士が解説】子なし夫婦の相続トラブルを防ぐ「遺言書」の重要性

子どものいない夫婦では、相続対策として遺言書を作成しておく必要性が特に高いといえます。

本件のように両親もすでに亡くなっている場合、遺言書がなければ、配偶者だけでなく兄弟姉妹も法定相続人となり、兄弟姉妹が先に亡くなっていれば、その子である甥・姪が代襲相続人となります。その結果、相続人が10人を超えるような多数人相続となり、全員で遺産分割協議をまとめることが難しくなるケースも珍しくありません。

一方、兄弟姉妹には遺留分がありません。そのため、今回の事例のように「全財産を妻に相続させる」という遺言を適切に残しておけば、原則として多数の兄弟姉妹や甥・姪を遺産分割協議に巻き込まず、配偶者に財産を承継させることができます。

ただし実務では、せっかく公正証書遺言を作成していても、「妻が先に亡くなっていた場合」の定めがなく、結局、兄弟姉妹や甥・姪との遺産分割が必要になるケースを度々見かけます。

そこで有効なのが「予備的遺言」です。同世代の配偶者を第一順位とする場合には、その方が先に亡くなる可能性も考え、甥・姪など次の世代を第二順位の受取人として指定しておくことが重要だといえるでしょう。

山村 暢彦
弁護士法人山村法律事務所
代表弁護士

※個人の特定を避けるため、事例の一部を脚色しています。

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