記録的な家賃高騰や物件価格の上昇が話題となるオーストラリア不動産市場。なかでも、国内トップクラスの住宅費を誇りながら、世界中から移住者やグローバル企業が絶え間なく押し寄せるのが最大都市・シドニーです。「高すぎる」と言われながらも、なぜ今、人々やマネーはこの街を選び続けるのでしょうか。現地メルボルンを拠点に、数多くの日本人投資家や企業の進出支援を手がけてきたKPG代表の寺田環氏が、駐在員や経営者のリアルな体験談と最新の市場動向から、価格だけでは見えてこないシドニー不動産の真の価値と底力を紐解きます。

観光地ではなくグローバルハブとしてのシドニー

オーストラリア・メルボルンを拠点に、日本人のお客様の不動産購入や企業進出のお手伝いをしているKPG代表の寺田環です。

 

前回(参考記事:『「世界一住みやすい街」で起きている異変…需要過多と価格停滞が織りなす「豪・メルボルン不動産」の現在地』) は、メルボルンの不動産市場について、住宅価格、賃貸市場、新築住宅の供給という3つの側面からお話ししました。今回は、私がオーストラリア生活の中でも長く関わってきたシドニーを取り上げます。

 

シドニーというと、オペラハウスやハーバーブリッジといった観光地のイメージを持たれる方も多いかもしれません。しかし私がビジネスの現場で見てきたシドニーは、観光都市という顔にとどまりません。アジア太平洋地域の金融・ビジネス・教育が交差する、グローバルハブ都市としての顔です。

 

世界中の企業がアジア太平洋地域の拠点としてシドニーを選び、世界中から留学生や移住者が集まり、新しいオフィスやインフラの開発が絶えず進んでいます。「人と企業が集まり続ける都市」——それがシドニーの本質だと感じています。今回は、その求心力の背景にあるものをご紹介します。

移住者が実感したシドニーという街の価値

以前、会社を売却したことをきっかけに、ご家族でシドニー移住を検討された経営者の方の住まい探しをお手伝いしたことがあります。日本から来られたばかりのころ、最初に驚かれていたのが家賃でした。「そんなに高いんだ」と率直に話されていたのを覚えています。

 

オーストラリアでは賃料が週単位で表示されることや、保証金など日本とは異なる慣習もあり、住まい探しそのものに戸惑いもあったそうです。ただ、実際に入居してみると印象は大きく変わりました。選ばれた物件はウィンヤード駅とバランガルーの双方を利用でき、シティ中心部にも近い立地でした。共用施設の質も高く、部屋からはシドニーハーバーを望む眺望が広がる——日本の都心ではなかなか出会えない住環境です。利便性、環境、建物のクオリティ、そして眺望。そのすべてが揃うマンションは、日本ではそう簡単には手に入りません。

 

最初は価格に驚きながらも、暮らすうちにその利便性と環境に納得される——これは、シドニーという都市の価値を象徴するエピソードだと思います。

数字が語るシドニーの底堅い求心力

2026年上半期の住宅価格を見ると、シドニーは前年比0.3%の上昇となりました。パースやブリスベンなど二桁の価格上昇を記録した都市と比べると、伸びは限定的です。一方で、賃貸市場は引き続き逼迫しています。2026年上半期の空室率は1.6%。週あたりの家賃は916豪ドルで、主要都市のなかでも高い水準です。

 

この数字が示しているのは、単なる「割高な街」ではなく、それだけの需要が絶えず生まれ続けている都市だという事実です。立地、交通、教育、生活環境——複数の魅力が重なり合って、シドニーの住宅需要を根強く支えています。

教育を目的に人を惹きつける都市

シドニーでは、大学や大学院への進学をきっかけに、賃貸ではなく住宅購入を検討するご家庭もあります。学生寮や賃貸住宅の費用を在学中だけでなく、卒業後まで含めて考え、帰国後は賃貸運用や売却を選択肢に入れるケースです。KPGへの相談でも、教育をきっかけとして住宅購入に至るご家庭が増えています。

 

また、シドニーは教育の選択肢が多い都市でもあります。語学学校や現地校に加え、IB認定校やグラマースクールも多く、教育方針に合わせて学校を比較したいご家庭から選ばれています。シドニーに人が集まる理由は、単に「人口が多い」からではなく、仕事、教育、移住など、異なる目的を持った人々を惹きつける都市としての磁力にあります。

アジア太平洋のビジネス拠点としての存在感

シドニーを他都市と比べる際、もう一つ見ておきたいのが企業活動です。昨年、日本から新たに進出する企業の店舗候補地探しと、既存の日系企業のオフィス移転支援のため、シドニーで1日16件の商業物件を視察しました。街を歩いて目にしたのは、新築オフィスや商業施設の開発、新しいメトロの開通、それに伴う駅周辺の建て替えや施設改装でした。

 

シドニーの不動産市場は住宅だけで成り立っているわけではありません。世界中の企業がアジア太平洋の拠点を置き、世界中から働く人が集まる、ビジネスハブとしての顔を持っています。実際、シドニーのオフィス賃料は上昇傾向にあり、グレードの高いオフィスを中心に需要が続いています。新しいメトロの開通や駅周辺の再開発も進み、企業が拠点を置く都市としての機能はさらに高まっています。

 

この流れのなかで存在感を増しているのが日系企業です。三菱地所は、小田急電鉄、近鉄不動産、JR西日本不動産開発、西松建設、阪急阪神不動産、三菱UFJ銀行などによる企業連合を組み、シドニー中心部の大型複合ビルを約1000億円規模で取得しました。

 

さらに三井不動産も、2019年の現地法人設立以降オーストラリアでの事業を拡大しており、シドニーCBDの中心地でマーバック社と共同開発する大型オフィスビル「55 Pitt Street」にメジャーシェアで参画しています。丸の内や大手町を手がけてきた日本を代表するデベロッパーが、相次いでシドニーに大型投資を続けているこれも、この都市がアジア太平洋のビジネス拠点として選ばれ続けていることの証左といえます。

インフラとともに拡大する住宅開発——背景にある「住宅不足」

シドニーでの住宅開発を語るうえで欠かせないのが、オーストラリア全体が抱える深刻な住宅不足です。移民や留学生の流入による人口増加に供給が追いつかず、連邦政府は2024年、320億豪ドルを投じて2029年までの5年間に住宅120万戸を新設する「Homes for Australia」計画を打ち出しました。それでも建設労働者の不足や資材価格の高騰から供給ペースは目標に届いておらず、住宅不足の解消には時間がかかると見られています。
この構造的な供給ギャップこそが、海外デベロッパーにとっての大きな事業機会になっています。

 

なかでも存在感を増しているのが日系の住宅・不動産大手です。積水ハウスオーストラリア社は、CBDから北へ約5kmのSt Leonardsで207世帯規模の住宅開発を進めるほか、シドニー中心部の大規模再開発「Melrose Park」(開発規模約30万㎡)を主導し、ウォーターフロント立地の「Wentworth Point」でもマンション開発を展開しています。Melrose Parkの南側街区(約2,000戸)には2024年、阪急阪神不動産が参画し、共同で分譲マンション開発を進めています。


三菱地所は、Lendleaseとの共同事業「ワン ダーリン ポイント」(分譲住宅中心、59戸)や、オフィスビルを高層住宅2棟へ建て替える「175 リバープール ストリート」に加え、マーバックとの大型複合開発「Harbourside」(シドニーCBD対岸のダーリングハーバー、ラグジュアリー住宅260戸)にも50%の事業シェアで参画しています。大和ハウス工業は、小田急電鉄と共同でシドニー郊外に戸建て約1,500区画を開発する「ボックス・ヒル・プロジェクト」を手がけたほか、現地の大手ホームビルダー「ローソン・グループ」をグループに迎え入れ、戸建・タウンハウスの請負・分譲事業やグループ会社の大和リビング社はサービスアパートメント事業にも展開領域を広げています。


シドニー全体の新築住宅の供給量を見ると、今後3年間の予測供給は年間需要の約51%にとどまる見通しです。都市の成長スピードに供給が追いつききれていないそれこそが、三菱地所、積水ハウス、大和ハウスなどをはじめとする日系デベロッパーが相次いでシドニーの住宅開発に参入している理由であり、同時にシドニーの強い住宅需要を裏づける事実でもあります。

アジア・オセアニアのハブとしてこれからも進化する都市

シドニーの不動産を語るとき、価格の水準だけに目を向けると本質を見誤ります。今回ご紹介したように、その数字の背景には、教育環境、企業活動、公共交通、都市開発など複数の要素が重なり合っています。実際にシドニーへ移住されたお客様が、最初は家賃の高さに驚きながらも、暮らした後にはその立地や利便性を評価されていたことは、この街の本質を象徴するエピソードだと思います。

 

前回取り上げたメルボルンでは、価格が伸び悩む一方で住宅不足が続くという市場の動きを見てきました。シドニーは、すでに高い価格水準にありながら、人・企業・教育・インフラが集積し続ける、アジア・オセアニアを代表するハブ都市です。オーストラリア不動産を検討する際には、「どの都市の価格が安いか、高いか」だけではなく、その都市に誰が集まり、なぜ選ばれ続けるのかまで見ることが重要です。

 

次回は、シドニーやメルボルンとはまた異なる特徴を持つゴールドコーストの不動産市場をご紹介します。

 

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参考文献
1.三井不動産株式会社「シドニー中心部『(仮称)55 Pitt Street』メジャーシェアでの参画決定」(2024年7月8日発表)
2.三菱地所株式会社「Mirvacとの大型複合開発 シドニー・ダーリングハーバー再開発のラストピース『Harbourside』参画」(2025年9月1日発表)
3.大和ハウス工業株式会社「ボックス・ヒル プロジェクト」(ニューサウスウェールズ州における大規模住宅地開発)

※本記事はKPGによるスポンサードコンテンツです。掲載されている情報は執筆時点のものであり、将来の運用成果や資産価値の上昇を保証するものではありません。投資に関する最終決定はご自身の判断で行ってください。