多角的な動きを見せるメルボルン不動産市場
オーストラリア・メルボルンを拠点に、日本人のお客様の不動産購入や企業進出のお手伝いをしているKlear Picture Global(KPG)代表の寺田環です。
前回は、人口増加や賃貸需要、制度面などから、オーストラリア不動産市場全体についてお話ししました。今回は、現在拠点を置いているメルボルンに焦点を当てます。
売買価格、賃貸市場、新築住宅の供給など、現在のメルボルンではそれぞれに異なる動きが見られます。まずは、実際の賃貸市場の様子から見ていきましょう。
現場で感じるメルボルンの住宅不足
当社は日本から駐在で来られる方、親子留学でメルボルンに来られたご家族の住まい探しも支援しております。たとえば、あるご家族のケースでは、お子様の希望する学校の学区内で条件に合う物件を探したところ、候補に挙がったのはわずか2〜3件でした。
そのうちの一つの物件で行われたオープンハウスを訪れると、15分ほどの内見時間に20組前後の入居希望者が集まっていました。人気のエリアでは、30組以上が同じ物件を見に来ることもあります。内見に参加できても、その場で借りられるわけではありません。申し込みを行い、オーナーや管理会社に選ばれて、ようやく契約へ進むことができます。
日本では、条件に合う物件をいくつか比較しながら住まいを決めることも珍しくありません。一方、オーストラリアでは、希望する学区やエリアを絞るほど、条件に合う物件は少なくなります。そこに複数の入居希望者が集まるため、住まい探しが長引くケースも珍しくありません。
他都市と異なる動きを見せるメルボルンの住宅価格
2026年上半期のオーストラリア不動産市場を見ると、都市によって価格の動きに大きな差が出ました。年間の住宅価格上昇率を見ると、パースが23.9%、ダーウィンが19.8%、ブリスベンが17.4%上昇した一方で、メルボルンは0.9%の下落となり、シドニーも0.3%の上昇にとどまりました。
2026年6月時点の住宅価格の中央値で見ると、シドニーが126万5,608豪ドルで最も高く、ブリスベン111万8,306豪ドル、パース104万6,551豪ドル、アデレード94万5,868豪ドル、キャンベラ88万5,254豪ドルと続きます。メルボルンは80万8,486豪ドルで、主要都市の中では下位に位置し、ホバート75万2,760豪ドル、ダーウィン63万8,187豪ドルがそれに続く形です。上昇率だけでなく価格水準そのものにおいても、メルボルンは他都市とは異なる位置づけにあることがわかります。
特に注目したいのは、メルボルンの割安感です。シドニーの中央値126万5,608豪ドルに対し、メルボルンは80万8,486豪ドルと、その差は約45万7,000豪ドル、率にして約36.1%も割安です。豪州の主要都市の中で高い経済力・生活水準を持ちながら、これだけ価格に開きがあるのはメルボルンならではの特徴であり、価格面での投資妙味の大きさを示しています。
また、メルボルンの売り出し物件数は前年同期比で17%以上増加しています。価格が大きく上昇したパースやブリスベンとは対照的に、メルボルンでは供給の急増とわずかな価格下落が同時期に見られるという、他都市とは異なる動きを示しています。
このように、同じオーストラリア国内であっても、都市によって市場の動きは大きく異なります。全国平均の数字だけで判断するのではなく、それぞれの都市の状況を個別に見ていくことが重要です。
■各都市の住宅価格の中央値
| 都市 | 中央値 |
|---|---|
| ブリスベン | 1,118,306豪ドル |
| シドニー | 1,265,608豪ドル |
| パース | 1,046,551豪ドル |
| アデレード | 945,868豪ドル |
| キャンベラ | 885,254豪ドル |
| メルボルン | 808,486豪ドル |
| ホバート | 752,760豪ドル |
| ダーウィン | 638,187豪ドル |
出所:Cotality Home Value Index、2026年7月1日発表分
なぜメルボルンだけ価格が伸びないのか
メルボルンの価格が伸び悩んでいる背景には、実は「コロナ禍の後始末」が大きく関わっています。ビクトリア州政府は、コロナ禍のロックダウンで膨らんだ州の借金を返すために、2024年から「土地税(land tax)」を引き上げました。
つまりメルボルンの伸び悩みは、供給不足が続くパースやブリスベンとはまったく違う理由で起きています。「コロナ対応で膨らんだ州財政を穴埋めするための増税」が投資家を市場から遠ざけ、それが物件供給の増加と価格の停滞という形で表れている、というのが実情です。
なお、人口増加や賃貸市場の逼迫といった需要側の底堅さは変わっていないため、大手会計事務所のKPMGやANZ銀行などの予測機関は、2027年以降メルボルンの価格が緩やかに持ち直すとの見方も示しています。短期的な停滞と、中長期的な回復余地の両方を押さえておくと、市場をより立体的に理解できます。
一方で、新築物件の購入者向けには、ビクトリア州ならではの手厚い印紙税優遇策もあります。契約日以降にかかる建築費用相当額を課税評価額から差し引ける制度で、実質的に税負担を大幅に抑えられる可能性のある仕組みです。
この優遇は2024年10月から投資家・海外の買主も対象に拡大されており、2027年4月までの時限措置となっています。他の州にはここまで手厚い制度はなく、新築購入を検討する投資家にとってはビクトリア州ならではの後押し材料といえます。
空室率1.6%、新築住宅の供給にも制約
売買価格とは別に見ておきたいのが、賃貸市場と新築住宅の供給です。売買市場の価格が大きく伸びていない一方で、住宅そのものは不足しています。2026年上半期のデータでは、メルボルンの空室率は1.6%。
さらに、不動産調査会社のレポートをもとにした試算では、今後3年間に予定されている新築分譲アパートの供給量は、年間需要に対して約38%と、主要7都市のなかで最も低い水準となっています。
教育・文化・スポーツが集まるメルボルン
メルボルンは、旅行情報誌「Time Out」による2026年版「世界のベストシティ」ランキングで世界1位に選ばれたほか、英エコノミスト誌の調査部門EIUが発表する「世界で最も住みやすい都市ランキング2026」でも、世界3位にランクインしました。過去には7年連続で世界1位に選ばれた実績もあり、住みやすさの面で世界トップクラスの評価を長年にわたり維持している都市です。
こうした高評価の背景には、この街にどのような人が集まっているのかという点も関係しています。メルボルンにはメルボルン大学やRMIT大学などの教育機関があり、国内外から多くの学生が集まります。CBD(中心地区)にはビジネス街や商業施設、文化施設が集積し、市内中心部では無料トラムも利用できるなど、生活のしやすさを支えるインフラも整っています。
さらに、全豪オープンテニスやF1オーストラリアグランプリなどの国際大会が毎年開催されるほか、ビクトリア国立美術館やフェデレーション・スクエアといった文化施設も充実しています。実際に弊社のお客様のなかにも、毎年全豪オープンを観戦するためにメルボルンを訪れ、その滞在拠点として不動産を購入された方がいらっしゃいます。
こうした教育、ビジネス、文化、スポーツといった都市機能の厚みが、世界的な住みやすさランキングでの高評価にもつながっており、メルボルンで暮らす人・滞在する人の背景を知るうえで欠かせない要素となっています。
価格だけでは見えないメルボルン市場の現在地
海外不動産についてお客様とお話ししていると、住宅価格が今後どう動くのかというご質問をいただくことがあります。もちろん、価格推移は不動産市場を見るうえで重要な指標です。ただ、今回見てきたメルボルンの市場では、住宅価格、賃貸の空室率、新築住宅の供給量、売り出し物件数が、それぞれ異なる動きをしています。そのため、一つの数字だけで市場全体を判断するのではなく、売買、賃貸、供給といった複数の側面を確認することが、都市ごとの不動産市場を理解するうえで欠かせません。
次回は、オーストラリア最大の不動産市場であるシドニーに焦点を当て、メルボルンとは異なる市場の特徴をご紹介したいと思います。
より詳しくオーストラリア不動産の制度や市場動向を知りたいという方のために、KPGでは入門資料をご用意しています。あわせて、現地の最新情報や一般公開前の物件情報をお届けするメールマガジンも配信していますので、ご興味のある方はぜひご登録ください。
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参考文献
1.Cotality「Monthly Housing Chart Pack – June 2026」(住宅価格指数)
2.Charter Keck Cramer「State of the Market H1-2026」(Residential Build to Sell & Build to Rent Apartments, Key National Metropolitan Areas)
3.SQM Research「Vacancy Rates – Melbourne」(賃貸空室率)
4.State Revenue Office Victoria / Victoria州政府「COVID Debt Repayment Plan」「Cutting costs of buying off-the-plan」(土地税・印紙税優遇策)
5.KPMG Australia「Residential Property Market Outlook」(住宅価格予測)
