世界の資産家は、なぜオーストラリアを選ぶのか
オーストラリア・メルボルンを拠点に、日本人のお客様の不動産購入や企業進出のお手伝いをしているKlear Picture Global(KPG)代表の寺田環と申します。2007年にこの国へ渡ってから、気づけば20年近くが経ちました。
今回から10回にわたり、現地で日々マーケットの現場に立ち会っている立場から、オーストラリア不動産のリアルな姿をお伝えしていきます。初回はオーストラリア市場全体を俯瞰するところから始めたいと思います。
1,000万豪ドルの邸宅を東京から来た経営者と歩いた日
以前、住宅関連のIT事業を手がける日本企業の方々を、メルボルンの高級住宅街トゥーラックにご案内しました。オーストラリア進出を検討するにあたり、まずは現地の空気を感じたいというご依頼でした。最初に訪れたのは、オープンハウス中の1,000万豪ドルを超える邸宅。広大な敷地と作り込まれた内装を前に、同行の経営者はしばらく言葉を失っていました。
続いてご案内したのは、著名建築家が手がけた約275平米、600万豪ドルのペントハウス。見終えたあとに「東京の相場感覚で見ても、この価格帯にこれだけの質の物件が当たり前に出てくることに驚きました」とぽつりとこぼされたのが印象に残っています。
不動産の買い手としてだけでなく、住まいにまつわる新しい技術を持ち込もうとする日本企業までもが、この国の市場に目を向け始めています。オーストラリアの不動産は、もはや一部の投資家だけのものではなく、世界中の資本とビジネスの関心が集まる場所になりつつあります。
先進国なのに、人口が増え続けるという希少性
なぜここまで資金が向かうのか。最大の理由は、人口動態にあります。オーストラリアの総人口は2026年中に2,800万人に届く見通しで、人口成長率は年1%台と、先進国のなかでは際立って高い水準を保っています。合計特殊出生率自体は1.48程度まで低下していますが、それを補って余りあるのが海外からの移住者です。
移民の受け入れペースはコロナ禍後のピークからは落ち着いてきたとはいえ、依然として毎年二十数万人規模の純増が続いています。人口が減っていく国が珍しくないなかで、住宅需要そのものが増え続ける市場は世界的に見ても限られています。
実際、シドニーやメルボルンの賃貸空室率は1%前後で推移し、良い条件の物件は募集から一週間程度で入居者が決まってしまいます。この需給の逼迫が、家賃や資産価値の上昇を下支えしてきました。
「貸しやすく、借りやすい」制度がつくる安定感
人口動態だけでは、投資先として選ばれる理由にはなりません。もう一つ大きいのが、賃貸制度の設計です。オーストラリアはオーナーの権利が比較的しっかり守られた法治国家で、滞納した入居者への対応も管理会社を通じて速やかに進みます。
現地で不動産管理に関わってきたなかで、家賃滞納を経験したのはこれまでにたった一度だけです。退去時には入居時の状態に戻す義務があり、管理会社による定期的な物件確認もあるため、オーナーが安心して長期で貸し続けられる仕組みが整っています。
この「制度への信頼」が、遠く離れた場所から資産を預ける海外投資家にとって、想像以上に大きな安心材料になっています。
政治的安定と透明性という、資産家がもっとも評価する条件
世界の富裕層が海外に資産を分散させるとき、真っ先に見るのは利回りの高さではなく、その国のルールがどれだけ透明で、長く変わらずにいられるかだと感じています。オーストラリアは外国人による不動産取得の手続きが明文化されており、審査基準も比較的わかりやすいです。政権が変わっても制度の大枠が急に覆ることは少なく、司法や不動産登記の仕組みも安定しています。
実際、日本は海外からの豪州不動産投資額で最大の投資国となった年もあり、日本の投資家からの関心の高さもうかがえます。加えて、この一年でオーストラリア準備銀行が利下げに転じたこともあり、市場は過熱ではなく緩やかな回復局面に入りつつあります。派手な値上がりを追うのではなく、腰を据えて資産を置いておける場所として、あらためて評価されているというのが現場の実感です。
まずは全体像を、次回からは都市ごとの物語へ
ここまでお話ししてきたのは、あくまでオーストラリア全体に共通する土台の話です。実際には、同じ国のなかでもシドニーとメルボルンでは値動きも賃貸需要もまったく違いますし、ブリスベンには2032年のオリンピックという固有の追い風もあります。次回以降は、こうした個別の都市にフォーカスしながら、現地に住む人間だからこそ見える数字の裏側をお伝えしていくつもりです。
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