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どうして、また団地なのか?
母が亡くなって、しばらくたったいまも、内藤由美子さん(62歳・仮名)は母の住んでいた部屋のことを思い出すといいます。
「母は団地住まいでした。私が小さいころもそうだったんです」
由美子さんが物心ついたころ、家族は団地から戸建てに引っ越しました。
父が働き盛りだった40年近く前のことです。当時の由美子さんにとって、戸建てへの引っ越しは「家が大きくなった」という単純な喜びでした。庭ができました。自分の部屋もできました。
「団地を出て戸建てに移ったので、私はずっと、戸建てのほうがいい暮らしなんだと思っていました」
ところが、母の京子さん(享年86歳・仮名)が晩年の住まいとして選んだのは、戸建てではありませんでした。
夫(由美子さんの父)を亡くしたあと、長年暮らした戸建てを手放し、母が移ったのは団地だったのです。
「えっ、なんで団地?」
それが由美子さんの率直な感想でした。
京子さんの年金は月約13万円。貯金は約800万円です。老後の住まいを考えるなら、できるだけ便利で、安心できるところを選ぶものだと思っていました。
しかし、母が見つけてきた団地は駅から徒歩圏内。スーパーや診療所も近く、住戸は改修されていました。
内閣府『令和5年度高齢社会対策総合調査(高齢者の住宅と生活環境に関する調査)』によると、高齢者が住み替えを検討する理由は「健康・体力面の不安(24.8%)」や「自宅の住みづらさ(18.9%)」が上位を占めます。また、移り先に期待することとして「買い物の便利さ」などの利便性が強く求められています。
そして肝心の家賃は月3万円台。戸建ての維持管理費を考えると、毎月の固定費は新たに発生するものの、年金生活には支障がない程度。
また、引っ越してしばらくすると、母から聞く話が変わってきました。
「今日、隣の人と会ったのよ」
「下の階の人が、病院を教えてくれてね」
「今度、集会所で催しがあるんだって」
電話をすると、母は団地で知り合った人の話をするようになりました。以前は、そんな話をすることはあまりありませんでした。
「最近、家を手放す人が多いの。隣近所の人は、顔を見たことがあるくらい。町内会の集まりも、いつの間にかなくなっちゃったし」
街の変化、というものでしょうか。それでも長く暮らしてきた家です。広い家に、広い庭。思い出がたくさん詰まっています。しかし高齢になった母にとって、庭の手入れは負担になります。家の中の掃除も大変です。設備が壊れれば、自分で修理や交換を考えなければなりません。
「母は、家を持っていることより、家のことを気にせず暮らせるほうが楽だったんだと思います」