※写真はイメージです/PIXTA
物理的に離れることを決意
その夜から、今の家に住み続けることが、本当に自分にとって一番いいのか。そう考えるようになりました。
現在の自宅は30代前半で建てた思い出のつまった家です。しかし、2階の子ども部屋は、娘が独立してからほとんど使っていません。庭の手入れにも月数千円かかります。そろそろ、建て替えも視野に入ります。何よりも一人になった今、家は少し広すぎました。
そして、娘一家との距離が近すぎることが、隆さん自身の生活を縛っているように感じられるようになりました。
そこで考えたのが、住み替えです。候補にしたのは、娘一家から電車で30分ほど離れた街。新婚当時住んでいたところで、少しは土地勘がありました。その街で、駅近の中古マンションをみつけました。価格は約2,400万円。預貯金と売却益を考えたら、無理のない価格だと考えました。
もうひとつの候補が、その街にあるサ高住。利用料は月15万円。別途料金になりますが、介護が必要になったときも安心、という謳い文句が気になったといいます。
住み替えを決める前、隆さんは相談しようと考えました。しかしなかなか言い出せなかったといいます。
「なんで勝手に決めちゃうの?」
「孫の面倒を見てもらえなくなるの?」
そんな反応を想像すると、口が重くなりました。そこでまずはLINEでメッセージを送ることにしました。引越しに向けていろいろと動いていること、妻(真由美さんの母)が亡くなったときに元気づけてくれたことへのお礼、孫との楽しい日々――。
「つらつらと書いていったら、まとまりのない長文になってしまって……娘も読むのが大変だったでしょうね」
LINEでメッセージを送った夜、真由美さんから電話がかかってきました。
「ちょっと寂しくなるけれど、今より静かに暮らせるようになるね。本当に今までありがとう」
真由美さんと話をして、必要以上に負担を感じてしまっていたことに気付いたといいます。
「言えばよかっただけなんです。『今度、温泉旅行に行く』などと。娘夫婦の予定を優先させていたのは、私の勝手なのに――お恥ずかしい」
その後、隆さんはサ高住への入居と自宅の売却が決まったそうです。
国立社会保障・人口問題研究所『第16回出生動向基本調査』では、第1子が3歳になるまでに祖母から育児援助を受けた割合が57.8%に上り、祖父からの援助も3割程度と、祖父母が育児の重要な担い手となっている実態が分かります。
しかし、良好な関係でも、日常的なサポートがシニア親の私生活を縛り、負担となることは少なくありません。工藤さんのように、家族を大切に思うからこそ物理的な距離を置き、サ高住への入居といった自立した生活を選ぶことは前向きな決断といえるでしょう。お互いの生活を尊重した「適度な距離感」が、良好な親子関係を守るためには必要といえそうです。