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増える「子のいない夫婦」、その老後
国立社会保障・人口問題研究所が実施している「出生動向基本調査」によれば、結婚持続期間15~19年の夫婦のうち子どものいない夫婦の割合は、1980年代以降、緩やかな上昇傾向にあり、直近の2021年の調査では1割に迫る水準となっています。晩婚化や価値観の多様化を背景に、子どものいない夫婦は今後も増えていくとみられます。
子育ての負担がない分、堅実に資産を築く夫婦も少なくありません。「子どもを頼りにはできないけれど、お金さえあれば、老後は大丈夫」。そう考えるのも無理はありませんし、実際そのとおりの面もあります。ですが、相続の相談を受けていると、お金があっても守りきれないものがある場面に出会うことがあります。今回は、子どものいない夫婦の相続にまつわる、ある家族の事例を紹介しましょう。
「妻に全部」という、ごく自然な結論
Aさんと妻Bさんは、子どものいない夫婦です。自宅の評価額は約3,000万円、預貯金は約5,000万円と、合わせて8,000万円ほどの資産を築いてきました。
Aさんが65歳で仕事を退いたころ、自分の身に万が一のことがあったときに備えて「もしものときは、財産はすべてBに」という内容の遺言を書きました。子どものいない夫婦の場合、財産の行き先を考えるときに登場してくるのが、配偶者以外に、亡くなった人の兄弟姉妹です。
Aさんには姉がいましたが、当時から姉は「私のことは気にせず、全部Bさんに残してあげてね」と繰り返し口にしていました。そんな姉の後押しもあり、AさんがBさんにすべての財産を相続させることへの違和感はまったくなかったのです。
ここで少し法律の話に触れておきます。兄弟姉妹は、配偶者や子とは相続における立場が異なります。配偶者や子には、最低限の取り分を法律上主張できる「遺留分」という権利がありますが、兄弟姉妹にはこの遺留分がありません。
つまり、「妻にすべてを相続させる」というAさんの遺言は、姉が反対しようとしまいと、法的には最初から揺るがない、非常にシンプルで有効な内容となります。姉自身の心情も、法律に対して抵抗するものがあるわけでもなく、実際になんの異論も挟みませんでした。
自主的に介護を担った姪
転機が訪れたのは、Aさんが82歳、Bさんが78歳になったころです。二人暮らしを続けるAさん夫婦に、体力的な衰えが目立つようになりました。
このとき、高齢夫婦のお世話係として動いたのが、Aさんの姉の娘、つまり姪にあたるCさんです。当時50歳でした。
「母(Aさんの姉、Cさんの母)はもう高齢で、叔父さん夫婦の面倒までは見られない。(仕方がないけど)私がやってあげるしかない」と、住み替えの手続きや老人ホーム探しに奔走してくれました。
Cさんの母(Aさんの姉)も長寿だったため、Cさんは一度もAさんの法定相続人ではありませんでした。Aさんの姉が存命である以上、代襲相続(先順位の相続人がすでに亡くなっていた場合に、その子が代わって相続する仕組み)も発生せず、Cさんは制度の上では「相続人ではない親族」という立場のままだったのです。
そのような関係性のなかで、Cさんは損得を考えて動きはじめたわけではありませんでした。良心の赴くままに叔父夫婦を手助けしていたのですが、「これだけ体を張ってお世話をしていれば、いずれなにかしらの形で報われるものだろう」といった期待が、歳月のなかで、Cさんのなかに自然と芽生えていきました。