資産1億円超を築き、50歳でFIREを果たした杉本さん(仮名)。海外へ国内へ、自由な日々を満喫していたはずが、一転、本腰を入れてハローワークに通うことに。事の始まりは、「父が倒れた」という電話と、きょうだいからの「無職だから暇でしょ?」のひと言でした。FIREに必要なのは“お金”だけではない――その理由を、FPの青山創星氏が解説します。
「だって無職でヒマでしょ?」…資産1億円超え・念願のFIREを果たした50歳会社員。国内外へ旅行・自由を謳歌していたが、わずか数ヵ月で“ハローワークへ駆け込んだ”ワケ【FPの解説】
介護は「1人で」ではなく「みんなで」、再就職の朝
永瀬さんの話を聞いても、杉本さんの心はすぐには決まりませんでした。
「サービスに任せきりにするのは、なんだか申し訳ない。父や母と過ごす時間そのものに、意味を感じたいんです」
介護に関わる時間を確保しながら、資産を大きく減らさずに済む方法はないか。杉本さんが出した答えが、収入を得ながら時短で働くことでした。そう決めた杉本さんは求職活動をすべく、ハローワークの窓口に向かいました。
ほどなく、杉本さんは契約社員として再び働き始めました。時短勤務で年収は400万円ほど、FIRE前の半分です。
それでも兄と妹には「介護は1人で背負うものじゃない。みんなで分担しよう。暇だからと言われる筋合いはもうない。僕も働いている。だからこそ平等に分担してほしい」とはっきり伝えました。
「余裕がないのは、康正だけじゃなかったんだな」
兄はそう漏らし、実家に通う曜日を3人で決めてからは、母の負担も少しずつ軽くなっています。
「1億円以上あっても、家族の問題は解決できませんでした」と杉本さんは笑います。
「でも、お金では買えないものに、ちゃんと向き合えた気がします」
FIREは、資産の計画さえ整えば実現できるものではありません。杉本さんの経験が教えてくれるのは、「時間ができること」もまた、あらかじめ備えておくべき事柄だということです。家族にどんな役割を期待されうるか、リタイア前に一度話し合っておくこと。それが、自由な時間を本当の意味で自分のものにする一歩になるはずです。
注1:介護等で被相続人の財産の維持・増加に特別の貢献をした相続人は、「寄与分」(民法904条の2)として、法定相続分に上乗せした金額を求めることができる。ただし共同相続人の協議が調わない場合は家庭裁判所の調停または審判が必要で、認められる金額や可否は個別の事情による。(出所)https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
注2:総務省「令和4年就業構造基本調査」によると、介護をしている人628.8万人のうち、働きながら担っている人(有業者)の割合は58.0%。2012年の52.2%から一貫して上昇している。 (出所)https://www.stat.go.jp/data/shugyou/2022/pdf/kyouyaku.pdf
青山創星
ファイナンシャル・プランナー