薄れていく「自由」、FIREの意味を見失った日々

実家と自宅を往復する日々は、想像以上に杉本さんの時間を奪いました。通院の付き添い、ケアマネジャーとの面談、母の愚痴を聞く時間。海外や国内を旅していたころの余裕は、どこにもありませんでした。

「自由になるためにFIREしたのに、今のほうがよほど不自由じゃないか?」

夜、一人暮らしの部屋で杉本さんはそう漏らしました。

兄と妹に何度か分担を持ちかけましたが、「忙しい」の一点張りで話は進みません。実家への行き来で交通費もかさみ、このまま自分だけが介護を担い続ければ、心にも生活にも余裕はいずれ削られていく。

そう思うと、このままでいいのかという迷いが、杉本さんの中で膨らみ始めていました。

FPの助言:「時間ができること」の落とし穴

そこで、杉本さんは旧知のファイナンシャルプランナー、永瀬財也さん(仮名)に相談しました。 「無職だから暇でしょって、簡単に言われるのがつらいんです」と打ち明ける杉本さんに、永瀬さんは数字を示しながら答えました。

「実は、介護をしている人のうち58.0%は働きながら担っています。2012年の52.2%から一貫して上がっていて、無職かどうかだけで介護の担い手を決めるのは、必ずしも実態に合っているとは言えないんです(注2)」

続けて永瀬さんは、2つの選択肢を挙げました。

「1つは、再就職はせず、これまでの取り崩し計画の中で介護保険サービスを手厚く使い、ご自身の時間を守る道。もう1つは、収入を得ながらきょうだいと分担する道です。どちらが正しいわけでもありません。時間ができることは、思うほど単純ではないんです」