親にも相続権はある? 死亡保険金は「遺産」とは限らない

亡くなった修さんの母である朋子さんには、本来、死亡保険金を受け取る権利はありません。このようなトラブルが発生する原因としては、相続の制度についての誤解や、感情のもつれが考えられます。

まず、民法における法定相続人の順位と相続権の整理が必要です。配偶者は常に相続人となり、配偶者以外では、まず子が第1順位の相続人になります。親などの直系尊属は第2順位であり、子やその代襲相続人がいない場合に相続人になります。そのため、亡くなった人に妻と子がいる場合、原則として親に相続権はありません(民法第887条、第889条、第890条)。

この事例のように、被相続人(修さん)に配偶者(潤子さん)と子(長男)がいるケースでは、親である朋子さんには民法上の相続権はありません。仮に遺産分割協議を行うとしても、朋子さんは協議の当事者とならないのです。

そして、死亡保険金については、さらに注意が必要です。たとえば「契約者・被保険者=夫、死亡保険金受取人=妻」という生命保険であれば、夫の死亡によって支払われる保険金は、原則として受取人である妻自身の財産となります(保険法第42条、この事例では「契約者・被保険者=修さん、死亡保険金受取人=潤子さん」でした)。

加えて、保険金受取人の変更についても、保険契約者は保険金の支払事由が発生する前であれば可能です(保険法第43条)。受取人を変更する際、従前の受取人(朋子さん)の承諾や同意は必要ありません。なお、契約者と被保険者が異なる死亡保険契約では、被保険者の同意が必要です。

つまり、朋子さんの「お金を分けてくれ」という要求は、本来は筋の通らないものです。しかし、このような制度について正しく理解していたとしても、感情的に割り切れない場合もあります。

死亡保険金の受取人変更を「子どもに家族ができたのだから当然」と受け止める人もいれば、「自分は切り捨てられた」と感じる人もいるでしょう。親子間で援助目的の金銭のやり取りがあった場合、「自分にも何か残してくれるはずだった」という思いを抱く可能性もあります。

特に一人暮らしで将来の生活に不安を抱えている親の場合、子を失った喪失感と経済的な不安が重なり、死亡保険金をめぐる感情的な対立につながりやすくなるでしょう。