認知症になってからでは遅い?FPが示した分かれ道

直樹さんはネットで調べ始めました。そこで発見したのが「家族信託」という制度です。家族信託とは、親が元気なうちに自分の財産の管理を信頼できる家族に託せる仕組み。これを使えば親の資産を子どもが管理することができます。

「要介護1なら、この『家族信託』っていうのが使えるのでは?」

しかし、母の知人から紹介されたファイナンシャルプランナーの永瀬財也さん(仮名)に相談すると、そうではないと分かりました。

「決め手になるのは要介護度ではなく、契約を結ぶ"今"の意思能力の有無なんです。つまり、お父さまがいま、契約の内容を理解して、自分の意思で『こうしたい』と判断できる状態かどうかです」

そして永瀬さんは、直樹さんにこう問いかけました。

「まず考えていただきたいのは、『何を誰に任せたいのか』ということです」

たとえば、父親が保有する株や預金を、子どもが管理できるようにしておきたい――。財産の管理が主な目的なら「家族信託」という方法があります。一方で、必要なのはお金の管理だけとは限りません。

「認知症が進めば、介護施設への入所契約や病院での手続きなど、生活に関わるさまざまな場面で、本人に代わって手続きをする必要が出てくることがあります」

こうした場合に選択肢となるのが「任意後見制度」です。

「大事なのは、財産管理だけで足りるのか、それとも生活や療養の支援まで必要なのか、という視点です。家族信託と任意後見は、そこが分かれ目になるんです」

永瀬さんの説明に、直樹さんは少しずつ整理できてきました。

「じゃあ、父がもう自分で判断できない状態だったら?」

「その場合は、本人が新たに家族信託や任意後見の契約を結ぶことは難しくなりますね。残るのは『法定後見制度』です」

法定後見制度は、すでに判断能力が低下した人に代わって、家庭裁判所が選んだ後見人などが財産の管理や必要な手続きを行う制度です。申立てから審判までは、多くの場合4か月以内には決着がつくとされています(注2)。まずは主治医の診断書からです。

「ただし、後見人は家族が自由に選べるとは限りません。家庭裁判所が事情を見て決めるため、親族ではなく弁護士や司法書士などの専門職が選ばれるケースもあります。また、後見人への報酬が発生する場合もあります」

「なるほど……。でも、認知症になったら、もう何もできないというわけではないんですね?」

「はい、“認知症になったら即終わり”ではありません。その後でも本人が自分の意思を示せる時期なら、できることはあります」

永瀬さんからさらに説明を受け、直樹さんは、ほかにも「元気なうちにできる準備」がいくつもあることを知りました。

「銀行の予約型代理人サービス、保険の契約者代理特約、証券の家族サポート証券口座は、どれも事前登録が前提の仕組みです。お父様が元気なときに決めておけば、今とは違った方法があったかもしれません」